学長と学生との懇談会(法学部?法学研究科)
日時 | : | 平成13年6月28日(木)12:00~13:10 | ||
場所 | : | 法学部会議室 | ||
出席者 | : | 江口学長、良永副学長、大澤学生部委員会委員(法学部学生委員長) | ||
参加学生 | : | 学部学生33名、大学院生1名 計34名 | ||
陪席者 | : | 学生部2名、法学部2名 | ||
傍聴者 | : | 学生3名、教職員7名 |
司会
(=学生?法学部行事実行委員会)
初めに、学生委員長の大澤先生から、挨拶をお願いいたしたいと思います。
大澤
まだ、全員揃ってないようですが、限られた時間の中での懇談会ということで、始めさせていただきます。今日は、お忙しい中、学長には時間を割いていただき、このような会を行うことになりました。文学部に続いて第2回目ということになります。
懇談会というもの自体が、熊本大学においては初めてで、今年から始まった試みでありまして、出席した皆さんの中には、学長のお顔を初めて見るという学生もいるかもしれませんが、フランクに、日頃思っていること、自分たちの学生生活を向上させるために、どういうふうなことを行えるか、行いたいか、そういうようなことでも構いません。自由に意見を出していただければというふうに思います。
司会
本日司会を担当することになった平井です。慣れない点もあると思いますが、よろしくお願いいたします。それでは、まず江口学長から一言、ご挨拶をお願いいたします。
学長
皆さん、こんにちは。今日は大変悪天候で、夜明け近くまですごい雨が降っていたこと、皆さんご存知ですか。今、学生委員長の大澤先生から、初めての試みというお話がありましたけど、実は、平成9年に法学部の篠倉先生が、学生諸君と学長とが打ち解けて話し合うべきだということを、ご提案になったそうです。私自身是非、そうして欲しいと思っていました。
熊本大学の学長になるまでは、常に学生諸君と接して参りました。岡崎国立共同研究機構では大学院学生だけしかおりませんけど、私の研究室には10数名近くのいろんな大学の学生がおりました。熊本大学からも1~2名来ておりました。
そういう経験がございますので、やはり、先生方と学生諸君との日頃のコミュニケーションが極めて大事だと思い続けておりまして、篠倉先生にお願いして、その時は、学部からどのように代表が選ばれたのか、全然知りませんけれども、大学院の学生も合わせて、くすの木会館で3時間ほど食事をしながら、いろんなことを話し合った記憶があります。
くすの木会館で夕食をすると費用がかかり、その度ごとに学生諸君が会費を出すということでは非常に心苦しい。大学としては、そういう費用は出せない仕組みになってますので、何かもっといい方法を考えて、是非、続けていただきたいということを希望していました。しかし、大学の法人化問題とかいろんな問題があって、なかなかその機会が得られなかったので、去年12月に痺れを切らして、私の方から、是非そういう機会を作って欲しいとお願いし、このような機会を作っていただいたわけです。
法学部には、学生委員会があるとのことですから、学生諸君が、学長と是非、直接会って、いろんなことを要求したり話し合ったり、こういう不満があるとか、学生部を通じて学長に会いたいと言ってくれると、いつでも、お会いすることができるわけです。
体育系の学生サークルの組織の人たちは、委員が代わったりすると、学長室を訪ねてくれます。事務局の建物に行くと、「学長?事務局長に御用の方は、総務課に連絡して下さい」と関所があるんです。訪ねられる方には大変うっとうしい。それだから、私は総務課に、「熊本大学の教官、事務官、学生ということがはっきりしたら、どういうご用件だということを聞く必要はありません。通しなさい。」と言ってあります。ただ私に時間があるかどうかというぐらいです。
そういうことですので、堅苦しい会議でなく、車座みたいにリラックスした条件で、皆さんと率直に語り合いたいというのが、私の希望でございます。
司会
それでは、これから懇談会に入りたいと思います。江口学長に質問や意見、聞きたいことがある方は、挙手をして学年と名前をおっしゃって下さい。あと、飲み物とか食べ物があるので、どんどん摘みながら質問して下さい。
学長
あのですね、外国の大学では、こういう感じで食べながら、研究の話をしたり、いろんな授業の話をしたりする、ランチ?オン?セミナーというのが極普通に行われております。だから、多少音がしようと構わないので、食べながら飲みながら、意見を言って下さい。
司会
あ、どうぞ。
学部4年
江口先生、こんにちは。今日は実は江口先生にどうしても、会いたくて会いたくてしょうがなかったんですが、「驚異の小宇宙 人体」というNHKスペシャルを江口先生が監修されておられて、実は僕もNHKスペシャルを見て、私は身の毛がよだつほどの感動を覚えまして、「ああ、人体って不思議なんだなぁ」と思いました。
そして、医療っていうことに関心を持ちながら、法学部で勉強しようと思って熊本大学に来たところ、私が入学すると時を同じくして、江口先生も熊本大学に来られて、何かしら運命の赤い糸で結ばれてたのではないかなというような気持ちがして、とても感激しております。
今、そちらにおられる副学長の良永先生の下で、「医療と社会福祉」ということについて勉強しているんですけれども、それも言ってみれば江口先生のお引き合わせかなと思って、ただならぬ運命を感じているんです。そこで、今日は、あとで時間がある時で結構ですので、是非サインをいただければ、何時でも死んでいいような幸せを感じることができますので、どうぞよろしくお願いします。
学長
これ、高かったでしょう。
学部4年
いや、高いも何も、江口先生と毎日お会いできるという...
学長
それが出ることがきっかけで、実はNHKの人と論争したこともあったのです。そういうことがあってからもう、10年以上になると思うんだけれども、岡崎国立共同研究機構の教授をしていた時、NHKが私のところに来て、私は発生学が専門なので、「人体を宇宙に例えて6回にわたって、特別の番組を是非作りたい、どうしても協力して欲しい。」と言われたんで、「それは大変結構なことです。」と私は監修をいたしました。
最初の第1巻が個体発生、要するに人という生き物がどういうふうにして受精卵から出来てくるか、それから、いろんな主要な部分を取り上げて、最終的には、脳、脳神経系、血管、骨、筋肉、そういう番組もできました。それは国際的に非常に評価されて、褒美を幾つか貰ってるんです。
私は、同時にそういう書物が出されるということを、その当時知らなくて、NHKの外郭団体のNHKエンタープライズという会社が作っていたんです。NHKは公共放送ですから、皆さんから視聴料を取って放送してるんでしょ。営利事業はやれないので、外郭団体の株式会社を組織で作って、そこから出版した。
それで、その本を作るについて、こういう写真がいるとか、それから原稿はディレクターとかプロデューサーが全部書くわけです。それは耳学問ですよね。先生にいろいろ教えていただいて、それが原稿になる。そうすると、写真等は自分たちが持っていないので、先生にいただかなくてはならない。
その時に、例えば、京都大学の竹市先生、竹市先生っていうのは、いつノーベル賞をお取りになってもいいぐらいの、いい仕事をしておられる方で、実は名古屋大学大学院当時の私の最初の指導生なんですよ。「写真が欲しい」と言われたら私、紹介するでしょう。「江口先生だったら、断るわけにいかん」と言って貸してくださった。なのに、そういう方々に原稿料とか写真の掲載料とかは払われていない。
それでびっくりして、「一体全体、これはどうなってるんだ」と言ったら、「写真等は取材であり、取材は原則としてお金を払わない」と言う。そんなこと言ったって、NHKエンタープライズは、それ出して大儲けですよ。それ平均30万部ぐらい売れてたってことですよ。多いものになるとさらに大部になるかもしれない。「盗人猛々しい。これからNHKの言うことは一切聞かない!」と言って文句を言った記憶があるんです。
まあ、番組そのものは非常にいいものになっている。私、その時に努めてCG(コンピュータグラフィック)は使うなとNHKに要求しました。この頃CGを使ったいろんな番組がありますよ、進化の問題だとか、自然のものとか。あれ、子どもたちが見ると、実によくできてるから、例えば3億年昔に、化石として見つかった動物の模型を作るわけです。あるいはCGで作っちゃう。子どもたちが見ると、それを信じるわけですよ。
自然観察だって、CGで結構だと言われるけれども、CGと本当の自然というのは絶対に違うんです。それよりも、例えば本当によく知った先生方に模型を作っていただくとか、是非、そのようにして欲しいと要求しました。だから、貴方も見られて記憶があると思うけど、胃液が出るところなんか、実によくできている。あれ模型なんです。女性の若い技術者が作ってくれたんです。そういう記憶があります。
学部4年
でも、とてもいい番組を作っていただいたお陰で、人体についての理解が進みました。将来、お金を儲けて大金持ちになったら、私が原稿料を払いたいぐらい。そのぐらいの番組で、ビデオも勿論全部持ってます。
学長
マンガも出てること知ってますか。
学部4年
いや、それは存じません。
学長
それで、非常にいいので、子どもたちにもわかるようにと言って、やっぱり私の監修で、小学館から放送全部を確か2冊に分けて、4冊だったかもしれませんがマンガ本が出てます。
司会
それでは、他に学長に質問がある方は。
学部3年
法学部の授業というのは、ほとんど選択制になっていて、個人で自由に選べるようになっているんですけど、何でかわからないけど、2年生になったら、法律学科と公共政策学科に半ば強制的に分けられるんです。
僕はあんまりその分ける意味っていうのがよくわからなくて、例えば理系のように、入る時に自分がやりたいコースに行きたいというなら、法学部何々科とかいうのがあると思うんです。でも法学部に入って、一応、希望を取るんですけど、やっぱり希望から漏れて、無理矢理、公共政策に行かされたりする人がいるんです。どういう意味付けでそういうふうに分けるようにしてるのかというのがわかりません。
学長
それは、非常に大事な問題であるけれども、深刻ですね。そうすると幾らかの学生は、自分の希望とは無関係に、不承不承、特定の学科に配属させられるということね、簡単に言うと。それは、法学部の事情があろうと思いますので、私から答えると物議を醸すという恐れもあるので、理由については、私、お答えいたしかねます。
しかし、基本的にはそういうことはあってはいけないと思います。ただ、選ぶのは基本的に学生諸君です。よく、先生方の中に、あれは俺の教え子だとか、あれは俺の弟子だということを口癖のようにおっしゃる先生がおられると思う。私はそういう先生はあんまり好みません。
基本的に師を選ぶのは諸君です。あの先生に是非とも学びたいということは、基本的に学生諸君にあって然るべきです。その集合体として学科なり学部なりがあるわけですから。それで法学部が2学科あれば、どちらかに属さざるを得ないことは、これは明らかです。入学する時からわかっている。だけれども、その二者択一が学生のままならないというのは、これは率直に言って問題だなと思います。
でも、例えばあまり偏りが生ずると、講義をやるにしてもセミナーをやるにしても、各学科の先生の数は限られているわけですから、収容人数もある程度限定せざるを得ませんし、出口つまり卒業後の進路とも関連します。1つの解決方法として、定員というのがもう少し自由に動かし得るようなことを、法学部の先生方にちょっとお考えいただくことも必要でしょう。
例えば、定員が100人で50:50のところを、一方は時には、年によっては、35:65のような偏りが起こるようなことがあってもいいような仕組みを学部の方で作れば、そういうことは起こらないわけですから。
それから、学生諸君が無理矢理に分属することによって、如何に悩んでいるか、苦しんでいるか、不本意な気持ちで勉強しているかということを、先生方ご自身が、あまりご存知ないと思うんです。やっぱり先生方に知っていただくことが、基本的に大事だと思います。
それともう1つ、これは私の皆さんに対する助言めいたことですけど、本当に好きなことが、自分の隠されたタレント(能力)と一致してるかどうかということを、必死になって皆さんが考えるべきです。好きだからしようということとは、異なります。何故かと言うと、若いうちは、末広がりの可能性がある。しかし、それらの可能性と自分のタレントは、独立でスペシフィックなものだと思います。レオナルド?ダ?ヴィンチのように、何もかもできるというような能力のある人は、ほとんどいない。
私は、生物学の内の実験生物学ですから、例えば細胞培養したいという学生には、「まずこれ、培養してごらん。手続き教えるので」と言って、後姿を見ます。肩に力の入っているような学生には、「君には細菌培養のような実験は不向きかもしれない」と言います。肩の力が抜けないような人は、緊張しちゃって細胞は飼えない。そういう人は必ず汚染させます。そういう向き不向きがあるんです。
それは、先輩とか、学友とか、それから先生、そういう方に客観的に、自分はこういうことをしたいんだけど、本当に向いているかどうか、そういうことを聞いてみることが、非常に大事です。「好きこそものの上手なれ」と言うこともありましょうが、一言申し添えさせていただくと、歳をとればとるほど、タレントの幅はどんどん狭くなっていきます。だから、本当に幸せになろうと思ったら、「ああ、こういう仕事に携わってよかったな」と、自分の好みとタレントを一致させるような学び方をすることです。だからそういうふうに持っていく努力は、皆さん自身がしないといけないことだと思います。
その点について、私自身どうだったかと言えば、まあまあ上手く合わせたと思うてますけど、実は、今でも悩んでおります。67年生きても、いまだに「本当に俺は真に自分に合ったことをしているんだろうか」ということを、今でも悩むのでありまして、このことには、一番一生懸命になられたらいいと思います。
司会
有り難うございます。それでは、次。はい、どうぞ。
学部4年
私は、先生にこれからの熊本大学をどうしていきたいのかというお考えを伺いたいと思います。というのは、今、小泉政権の下、大胆な改革が進められていますけれども、その中で今、民営化だとか独法化だとか言われてて、先日も6月11日に、文部科学省からも大学の構造改革について批判されて、文部科学省自体も、国立大学も積極的に手を貸して欲しいというふうに言ってますし、それで、例えば今の時点で先生はどういうふうにお考えを持っていらっしゃるのかというのを、お伺いしたいんです。
学長
私は、文部科学省の方針というのは、国立大学をできることなら国立大学として維持したいと考えていると思うんです。しかし、余りにも野放図に数を増やした。20~30年前から、国立大学をそれにふさわしい大学にすべく整備して、必要なお金を支出してやるべきだったこと、それを怠ってきた。だから、今、国立大学を見直さないと手遅れになると、文部科学省は相当真面目に考えております。
つい数日前も、新しい文部科学大臣とお会いいたしました。それで新聞に報じられている、例えば国立大学を統合化するとか、それを読んだ人は、3項目が書いてあったでしょう。あれには前提がありまして、国立大学の役割というのは、第一に、将来、日本の国あるいは人類のために貢献をしてくれる人を育てる。第二に、先々に、社会、人類が必要とするであろう知恵を蓄えて、それをいつでも出せるようにする。それともう1つは、経済的な条件いかんに関わらず、高等教育を機会均等に受けられるようにするということです。
それは言わずもがなのことであって、そして現今の国家の経済財政構造改革については、国立大学はあの3項目を一生懸命やって、貢献すべきであるというのが、文部科学省の方針です。上の大事な前提が抜けていて一人歩きする。私に言わせたら、あそこに書いてあることは現代の国立大学の目標のごく一部であるが、真摯に受け止めて対処すべき事柄であるというふうに捉えておるし、文部科学省の高官に私自身がお聞きしても、そうおっしゃっている。
ただ、この国は、政治家及び人々の文化とか学問ということに対する考え方のレベルが、残念だが非常に低いのです。だから、短絡的に国立大学は金を使いすぎるといった批判や論議が横行する。
熊本大学にあっては、私は、大学院をしっかりしたものに整備したいと考えている。私たちが皆さんの同年輩で大学に学んだ時と現代では、学ばねばならないことが増えている。だから、本来だったら、大学は、例えば8年ぐらいにして、4年ぐらいから伸びた人は大学院に行けるようにする。それで、大学院で2~3年やっていい研究をしたら、その時点で学位がとられるという自由度の高い大学に変わるべきだと、基本的にはそう思ってます。
そういうのを理想にして、大学院を充実する。少子化になりますから学部を縮小しつつ、それをきっちりと支え、実質的なものにしていくというのが、私の理想でございます。学生総数は、大学院、学部学生合わせて、今ぐらいが一番いい規模でしょう。だから、この度、恐らく平成14年度、明年の4月には、文学部と法学部の先生方、一生懸命考えてくださった、大学院の博士課程ができると確信しております。それもどんどん、更に充実していく。そして、並行的に学部を見直していく。
何故そういうことをやるかっていうと、僕は名古屋大学卒業ですから、旧帝大のことよく知ってるんですけど、旧帝大と、戦後に大学としてできた熊本大学等の大学とは根本的に違う。規模といい先生方の数といい。だから、そういうものを目標にしたって意味がない。小なりとも世界に通用する大学に、必ずやなれます。
この熊本大学には、例えば、生命科学の分野では、世界のトップクラスと評価されている領域もあるんです。だから、そういう突出した部分を中核に据え、大学全体を特化させていく、そういうのが私の考え方です。
司会
有り難うございます。それでは、他に質問のある方。
学部3年
3年次編入で熊大に来ましたので、熊大に入った感想と熊大に入っての提案という形で意見を述べさせていただきます。熊大に入って思ったんですけど、私、法学部以外の学生を見てないんでわからないんですが、全体的に、公の場で自分を主張する能力に欠けてる気がするんです。
場面とか場もあると思うんですが、ディスカッションの能力が低いんじゃないかと思うんです。こういう能力っていうのは、社会に出て必要な能力なので、大学から入ってくる学生の向上のためにも、この能力が必要じゃないかと思います。そこで提案なんですが、学生を見ていて、今、熊大の法学部の学生に欠けてるスキルは何かというと、コミュニケーションとビジョンという2つのスキルではないかと。
コミュニケーションというのは、言わずと知れた対人関係のコミュニケーションなんですけど、その中でのディスカッション及びプレゼンテーションです。人前で相手の意見を聞き、自分の意見を主張することで、全体に対して自分の意見を論理的に発表する。
あと、ビジョンなんですけど、これはちょっと僕の勝手な解釈なんですけど、自らのビジョンを創造するということで、今の社会の状況を自分なりに分析しつつ、ある意味あるべき姿、こういう社会になって欲しいというあるべき姿を自分で作って、その中で自分がどういうふうに社会貢献しているかと。これがビジョンです。
従って、できれば、1年次もしくは2年次で、今言いましたコミュニケーションのスキルとビジョンのスキルを掲げる授業をする必要があるのではないかと僕は思ってます。以上です。
学長
よくわかりますよ。今の指摘は、熊本大学の学生に限ったことではないです。しかも今の若い人たちにも限ったことではなくて、日本人の1つの特徴とも言えるんです。自己主張が下手で、プレゼンテーションも下手で、それからコミュニケーションも下手です。
それは、これから申し上げることは、隣にいらっしゃる良永先生のお考えとは異なるかもしれませんけれども、若者の立場から言うと、昔から、今まで儒教で家族制度と教育もやられてきたわけです。孔子さまの教えで、長幼の序というのを非常に重んじる。だから、若い者が口出すと生意気だと。そういう全体の社会的な、あるいは家族制度、そういう国です。それだけではありませんよ。日本人は遺伝子的にそういうのは下手かもわからないと思うんですけど、そういう背景がある。
だから、今日の貴方が指摘されるように、これほど外国人とすぐ折衝、接しなければならないような時代になったら、どういう事情があったかどうかは別にして、それは何としても克服しないといけない。だから、貴方の提案は、即刻取り上げられて然るべきだと思う。
しかし、皆さんに、これも私からのお願いでもあるんだけど、先生方が皆さん方に接する努力をしてくれるよりも、皆さんが、先生方をつかまえて自己主張するということの方が、よほどやりやすいと思う。だから、忙しそうに先生がしているから、今訪ねると邪魔になるんではなかろうかということを考えてはいけないのです。先生の研究室をドンドン叩いて、いつ行っても先生はお留守だ。それだったら、「先生、何しとるんだ。いつも学校にいない」ということをおっしゃったっていいんです。「今日は忙しい。明日にしてくれ」と言われたら、また明日来たらいいんです。それが学生の行うまず第一歩です。
集団でコミュニケーションとか自己主張の能力を高めようという授業というのは、大変難しいと思います。それを学生諸君と先生が一緒になって、授業形態を考えないと、効果の上がる授業ができないというので、そういうことを高めるために、今、貴方が言った自己主張、コミュニケーション、プレゼンテーションをね、そういうことから始められたらどうですか。表現能力、それは自己の主張を如何に上手に相手方に理解させるかという能力ですから、そういうことを高めていくためにはどういう授業形態がいいかなんていうことも、先生方と皆さんが一緒になって考えるべきだと思います。
僕なんかしょっちゅう外国に行くでしょう。自然科学ですから、発表するでしょう。まず、最初にアメリカの国際会議に29歳の頃に行って、そのプレゼンテーションの格差に驚愕いたしました。日本の学者のプレゼンテーションでは、チャラチャラした派手なスライドを作るべきでないというようなことが、よく言われていた。なぜかというと、いやしくも科学であるからピンクや赤い色を使って、チャラチャラしたスライドなどもってのほかだと言うような風潮がありました。そのためにものすごく損をしております。
それで私は、その経験を活かして、スライドは全部自分で作ります。この頃コンピュータでパッとスライドできるけど、私は今でもさまざまな色を使ってカラー原図を作り、スライドにします。その方がうんといきいきするから。すると、私が国際会議に行ってね、「吾朗、今度、お前どういうスライド作ってきた?お前のスライド楽しみだ」と言ってくるんです。私の論文から、私の原図が外国の教科書に多く引用されてるんです。だから非常に貴方のおっしゃることは大事です。だから、法学と言えどもね、全て同じです。いい質問でございました。
司会
有り難うございます。では、そろそろ時間になりましたので、次の質問を最後にしたいと思います。何かご質問のある方は?はい、どうぞ。
修士1年
ここにいらっしゃる良永先生も中心になっていらっしゃるんですけど、昨年度から熊本大学法学部の地域連携フォーラムというのを私たち、お手伝いで参加させていただきました。一般の人たちに大学の先生方が講義をするのですが、周りの皆さんの熱気というのに、すごくびっくりして、私のお母さんとかおばあちゃんとかそれぐらいの世代の方々なんですけど、皆さんすごく熱心に学ぶ姿勢というのを、改めて感じました。
先程も文化と学問に関する考え方とか、熊本大学が小なりとも世界に通じるというお話をされましたけど、本当にそういうフォーラムとか、そういうのを通してやっていけることだと思うんで、これからもやって行って下さいということを、お願いしたくて発言しました。
学長
あれは私は、本当にいいことをやっていただいて、うれしく思っているんですけど、欲を言うと、もっともっと早い時期からやって欲しかった。それで、今、貴方がおっしゃった、あそこに参加された一般の方々の熱気を感じたということ、それはどういう点にあるかというと、社会に出られた方々は、非常に問題を意識されておられるわけです。
学生諸君は、社会人に比べるとそういう意味での問題意識は、まだ構築されていない。だから、教える側からもそういう意味ではインパクトが感じられない。学生諸君に問題意識がないのです。
僕は、いろんな挨拶、卒業式等には「問題を意識して欲しい」といつも言っています。若い人たちに非常に大切なことは、その時々、問題を意識することだと思います。それで、社会人は「これを知りたい」とか、大学を出ていらっしゃる人はご自身の経験に照らして、かって学んだ事柄をもっともっと、広く深く知りたいと思う。知ることによって、それを直接役に立てようとか、そういう意欲なんです。文化的な素養を広げたいとかいう方もたくさんいらっしゃる。だから熱気を感じるのです。
昨日、4年前にできたばかりの九州情報大学に行って参りました。この大学は、経済経営関係の短期大学を4年前に情報技術を取り入れて、経営を更に効率化すべきであるという理念の下に、情報技術を教えながら、企業経営とか組織経営のできる人材を育てるという目的で4年制大学に改組した大学です。そこに私、設置審議会の委員として実施調査に遣わされました。
その時に、学生諸君と対話をする機会をいただいて、約1時間、いろんな話を聞きました。その中に社会人で36歳の看護婦の学生さんがいらっしゃって、こういうことをおっしゃった。「若い学生と一緒に学んでいるんですけど、3分の1の学生さんは、おしゃべりをして全然話を聞いてない。どうしたことでしょうか」と。そういうことを非難されている学生諸君も同席している場でですよ。
その時に、まさしく今僕がお答えしたようなことを感じました。問題意識が希薄で、しかもその講義があてがいぶちなんです。自分で選んだものではないんです。3分の1ぐらいは、自分で選んだものではないということがあって、先生も「静かに」ということを言わない。今この質問と関連するかなと思いました。
私は、熊本大学で、先週の金曜日に「大学生のための健康教育」という総合科目で、300人ぐらいの1年生の諸君の前で講義をしました。そのほか、今まで、記憶できないほどいろんな大学、私立大学も含めて、非常勤講師をやってますけど、熊本大学の学生諸君は、大変レベルが高いというふうに自負しております。僕の経験で、寝てる人はいる。それは生理的な欲求だから仕方がない。僕もよく寝てましたから。しかし、授業妨害するような騒音を立てたり、おしゃべりする人はほとんどいない。
だから、皆さんは、そういう非常に恵まれた環境におかれているということも、やっぱり感じていただいて、早い話、講義を受けている学生の3分の1が喋り、私語をして止まらないというたら、耐えられないでしょ。熊本大学にはそういう学部はないんです。
だから、今、おっしゃったようなことは、これから本当に本気になって、今やっておられるフォーラムというようなことを、学生諸君も先生も一体となって、外に向けて更に積極的にやっていただきたいと、私は思います。
司会
有り難うございます。本日こういう会を持ちまして、意見もいろいろあったと思いますが、まだ、今日、言いたいことが言えなかった人もいると思います。それで、先ほど学長もおっしゃられましたが、こういう会を設ける時だけ言うのではなくて、普段の生活とかで、直接お話してもいいのではないかと思います。僕らの学生生活で思ったこととか、積極的に言った方が、大学全体の向上にもつながるのではないかと思います。
学長
はい、是非そうしてください。1人ずつ学長室にポツンポツンと訪ねられると、非常に収集がつかなくなるので、例えば法学部だったら、学生仲間のオーガニゼーションで話し合って、今日は我々のグループで4~5人で行こうかというようなことで、訪ね下さることを歓迎します。学生部を通じて、学長に会いたいというようなことで、積極的にこういう機会を作っていきましょう。お互いの努力でできると思います。
今日は有り難うざいました。5人の方しか、意見を聞くことができなかった。僕がちょっと喋りすぎたんじゃないかと反省しております。いろんなことが言いたいんです。慣れてくると、もっとスムーズにコミュニケーションすることができると思うので、是非ともやりましょう。有り難うございました。
副学長
学長とのコンタクトの具体的なとり方を教えておきます。今こちらに3人、学生課の職員がいらっしゃいますね、大教センターの1階に、副学長室もありますが、その隣に学生課という部屋があります。そこで、お世話をしますので、いつでも来てください。私が空いてれば、私のところも勿論構いません。どこに行っていいかわからないと困りますので、学生部の中の学生課に話してもらえばちゃんとお世話をいたします。学長の指示だと思っております。以上です。
司会
では、最後に大澤先生。
大澤
じゃあ、副学長もああいうふうにおっしゃってますから、学長の時間を思いっきり皆さんのところに使うように努力していきましょう。今日は50分という時間、一緒に過ごすことができました。できればまた次回にこういう機会を設けていただけることを願っています。
学長
学生諸君とこういう機会を持つのは、どんなに忙しくなっても喜ばしいことであって、決して厭いません。
大澤
まだまだ言い足りないかもしれませんけれども、時間的制約もあります。今日はどうも有り難うございました。
学長
有り難うざいました。いい機会をいただいて。
司会
では、以上をもちまして、学長と学生の懇談会を終了したいと思います。有り難うございました。
お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206