国立大学の基盤的経費である運営費交付金の充実を(声明)
1.平成16年4月からの国立大学の法人化は、大学改革を推進し、国立大学が本来果たすべき使命や機能を従来以上に実現させることを前提として、個性豊かな大学づくりと国際競争力ある教育研究の展開等を目指して制度設計されました。以来、熊本大学は、大学構成員が一丸となった機能的?戦略的な大学運営により、地域に根ざしつつ、国際的にも存在感を示す総合大学として、国際水準の教育、独創的で優れた研究、地域との連携による社会貢献、留学生教育と国際貢献に邁進しています。
2.一方で、法人化と同時に運営の効率化が課せられ、国からの運営費交付金は、毎年一定の額が削減(一般管理費の効率化による毎年1%減と附属病院の経営改善による毎年2%減。本学の場合、数学部の教育研究費に相当する4億円が毎年減額)されています。運営費交付金は、教職員人件費、光熱水費、施設維持費が大部分の使途であり、授業料等を加えて教育研究に充てられる基盤的経費であります。これまで、削減に対して、教職員の欠員補充の抑制や様々な経費削減に努めてきましたが、もはや、教育の質の維持や病院経営において、限界に近い状態にあります。このまま削減が継続されれば、国際競争力どころか、大学及び附属病院が機能不全に陥り、国立大学が果たしてきた我が国の高等教育、将来の人材養成という使命の遂行に重大な障害をきたすことは自明であります。
3.このような状況下にあるにも関わらず、本年2月27日の経済財政諮問会議の民間議員の提案による運営費交付金の配分ルールの見直し案は、「努力」と「成果」に応じて「傾斜配分」するというもので、過度な競争と市場原理により、さらなる削減を意図するものでありました。約4ヶ月の政府諸会議での議論の結果、6月19日に閣議決定された「経済財政改革の基本方針2007」においては、「(1)教育?研究面、(2)大学改革等への取組の視点に基づく評価に基づき適切な配分を実現する。」との表現となり、運営費交付金の配分の具体的な在り方については、今後の議論に委ねられています。
評価に基づく適切な配分は大学の活性化を促すために必要なことですが、そもそも高等教育や国立大学の在り方の議論は、市場原理や経済?財政の議論を中心として短期的に結論を求めることがあってはならず、基礎研究がイノベーションに結実するのに三十年以上かかることや、地方の大学が地域で果たしている役割などを踏まえて長期的視点で多角的、総合的に行われるべきであります。
4.諸外国では人材養成こそが国力の源泉であると考えて、何よりも優先して高等教育への公財政支出の増強を図っています。このような国際環境の中、我が国の力強い成長と国際競争力を確保するために、自然資源や国土を十分に持たない我が国が今、なすべきは、運営費交付金の削減ではなくて、高等教育への公財政支出(GDP比0.5%)を欧米並みに、GDP比1.0%以上に増額、または近づける努力をすることです。投資額の増加なくして運営費交付金の傾斜配分を実施すれば、不適切な削減を生むことになり、国立大学全体の人材養成や基礎研究機能を弱体化させるばかりか、機能破綻に陥らせる可能性が大であります。そのような状況になれば、地域の知の拠点としての教育?医療?文化?経済の振興への寄与やイノベーション25、科学技術創造立国等の施策の実現はおぼつかなく、日本のそれぞれの地域や国全体の力の衰退を招き、我が国の将来にとって取り返しのつかない状況に陥ることが強く危惧されます。
熊本大学は、大学改革の努力をさらに継続いたしますが、本学が、「知識社会」における人材養成と学術研究により、我が国のイノベーションや文化を創成する役割と、地域の知の拠点として、高度な地域医療や地域の活性化に貢献する役割を果たしていくことができますよう国民の皆様と関係各位のさらなるご理解とご支援をお願いいたします。
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