令和3年度入学式式辞
入学生の皆さん、熊本大学へのご入学、おめでとうございます。
皆さんがこれから学ぼうとする熊本大学は、明治20年(1887年)に設立された第五高等中学校(五高)から数えて135年という長い歴史と素晴らしい伝統を持った大学です。文学部、法学部、理学部は旧制第五高等学校、教育学部は熊本師範学校、工学部は熊本工業専門学校、薬学部は熊本薬学専門学校、医学部は熊本医科大学を母体として、72年前の昭和24年(1949年)に国立熊本大学として発足した総合大学です。旧制第五高等学校の本館は赤れんが造りの建物で、現在は五高記念館として赤門などとともに国の重要文化財に指定されています。五高記念館は五年前の熊本地震で大きな被害を受けましたが、本年度には工事が完了し、重厚感漂う姿を見ることができるようになります。その第五高等学校では、夏目漱石、嘉納治五郎、ラフカデイオ?ハーンなどが教鞭をとりました。このような素晴らしい歴史の継承を踏まえながら、熊本大学は発展を続けています。
昨年は新型コロナウイルス感染症拡大により社会が一変した年でした。その影響は1年を経過した現在もなお収束の兆しは見えません。まさにパンデミックの状況で、1918年から1920年にかけて流行し、全世界で5000万人以上の人が死亡したスペイン風邪以来の100年ぶりの事態を招いています。皆さんはこのような状況の中、過酷な受験勉強と初めての大学入学共通テストを乗り越えて本学に合格されました。本当におめでとうございます。
新型コロナウイルス感染症拡大は世界中の教育、特に大学教育にも大きな変化を与えました。ほぼすべての大学においてオンライン授業が導入され、自宅など大学以外からも講義を視聴でき、双方向型授業が可能になりました。オンライン授業のメリットは、海外のトップ大学などの授業を受け、日本の大学との授業と単位をシェアすることも可能になります。また、オンライン授業と対面授業をハイブリッドさせ、講義においてはオンライン授業を予習的な目的で行うとともに、対面授業を少人数制の演習型授業とすることにより教育効果が上がります。皆さんもこのことを理解した上で、これからの講義を楽しんで下さい。
大学は高校までの教育と違い、教えられるのではなく自ら学ぶ事が大切です。すなわち単に知識を受けるだけでなく、目的意識を持って自ら学ぶ姿勢が重要です。そして今社会が求めているグローバルな人材を目指してください。グローバルとは外国語が堪能なだけでなく、多様な文化、社会を理解できる事を意味します。
さて、熊本大学のコミュニケーションワードは「創造する森 挑戦する炎」です。2012年に本学のブランドイメージを象徴し、本学の根源的な特徴を社会に広く訴えることを目的として設定いたしました。「創造する森 挑戦する炎」は水平と垂直を表しており、創造する森が水平、つまり地域も含めて教育や研究を支える充実した環境や基盤を表し、一方、挑戦する炎は垂直、すなわち個々の学生の皆さんや教職員が、何か新しいことに挑み、社会を変革するようなことに繋がることを表現しています。私は、皆さんの力を育むために大きな「創造する森」を「挑戦する炎」のような情熱をもって作りたいと思います。そして皆さんには、その熊本大学の「創造する森」の中で、ぜひ、オンリーワンな炎に挑戦し、垂直に天高く燃える炎を灯していただきたいと思います。有意義な大学生活を送られることを期待しています。
ところで、オンライン授業が行われると、人との交流の機会が少なくなります。しかし、大学は、共に学ぶ友人や部活動の先輩、後輩達との出逢い、共通の目標に向かって力を併せて成し遂げる過程の中で人間形成を行い、社会性を身に付ける場でもあります。私は半世紀前の1972年にこの熊本大学に入学しました。大学時代の友人や部活動を通して人として成長できたと実感しています。その仲間とは、50年経った今でも交流があり、人生の様々な重要な局面において、頼もしい存在になっております。
これを実現するために最も重要な事はコミュニケーションです。しかもface to faceなコミュニケーションです。新型コロナウイルス感染症拡大によるオンライン会議の普及でface to face なコミュニケーションは著しく減ってきました。オンライン会議は便利で、時間の節約もできます。しかし、私は感染予防に注意しながら、できる限りface to face なコミュニケーションを心がけていただきたいと思います。これは私の今までの経験から得た信念です。コミュニケーションを良くすることで事が上手く運びます。いくら頑張ってもコミュニケーションが良くないと決して上手くいきません。私は、より良いコミュニケーションのために、人との交流の機会を作り出し、皆さんの笑顔で満たされるキャンパスを作りたいと思います。ぜひ皆さんには思う存分にコミュニケーションをして頂きたいと思います。
新型コロナウイルス感染症が未だ収まらない現状ではありますが、教職員が一丸となって皆さんの成長と活躍を応援いたしますので、私も育った伝統ある熊本大学で有意義な大学生活を送っていただきたいと思います。
本日は、熊本大学へのご入学、誠におめでとうございます。
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令和3年4月4日
熊本大学長 小川久雄