平成22年度予算編成に関する九州地域11国立大学学長による共同声明
先般の行政刷新会議による「事業仕分け」作業の結果を受け、九州地域11国立大学学長が「地域の知の拠点である大学への公的投資の充実を」と題した共同声明を本日、九州大学国際ホール(九周大学箱崎キャンパス)において発表しました。声明文は以下のとおりです。
資源に乏しい我が国が、人口減少下においても持続的な成長を可能とするとともに、地球規模の課題解決に先導的役割を果たしていくためには、その核となる人材を育成し、新たな価値や技術を絶えず創造していくことが必要不可欠であります。その中で、大学は学術の中心として、創造性豊かな優れた人材を育成し、新たな「知」を創出、継承するという社会的責務を担っています。
先般、平成22年度予算編成に向け、行政刷新会議の下で試みられた「事業仕分け」作業において、
高等教育や学術研究に係る多くの事業について縮減や見直し等の方針が示されました。科学技術や教育の分野も含め、予算編成過程の透明性を高めていくことは大切なことであります。しかしながら、人材育成や教育?研究活動は継続性が重要であり、またその成果が社会に還元されるまでに時間を要することが少なくないことを理解していただいた上で、中長期的な展望に立った戦略的なビジョンを明らかにし、それに沿って議論が行われる必要があると考えます。国際的な競争が激化する中で、仮に我が国だけが大きな中断をするような事態となれば、我が国の持続的な発展や世界の中での我が国のプレゼンスに取り返しのつかない深刻な影響が出かねないと、危惧の念を抱いています。
このため、国家百年を見据えた長期的な視点に立った、大学や科学技術分野に対する公的投資の確保?拡充に向け、地域の皆様をはじめ多くの国民の方々に、下記各事項の重要性についてのご理解とご支援をお願いします。
1.国立大学運営費交付金等公的投資の充実
知識基盤社会において我が国社会が持続的な発展を続けていけるよう、新たな「知」につながる基礎的な研究活動を担うとともに、産業界をはじめ社会のあらゆる場で活躍できる多様な人材を絶えず育成、輩出することが大学に求められています。このような社会の要請を受け、九州地域の各国立大学法人においても、それぞれの個性?特色を活かした組織的?体系的な教育研究、医療活動が展開されています。
その一方で、大学における教育研究を支える基盤的経費は減少傾向にあります。法人化以降、国立大学法人運営費交付金は毎年1%減額され、平成21年度の運営費交付金は法人化初年度と比較して720億円の削減にも及び、その規模は福岡教育大学、佐賀大学、熊本大学、宮崎大学、鹿児島大学、鹿屋体育大学、琉球大学の7学分の運営費に相当します。これまで各大学では様々な経費削減努力を行ってきましたが、仮に運営費交付金や特色ある教育研究の取組みを支援するプログラムの予算が大幅に削減されることとなれば、教育研究の水準の維持?向上は困難となり、国際競争の中で我が国の大学の地位の低下は必至と考えられます。
選挙時の民主党の政策文書(「民主党政策集INDEX2009」)にも、「先進国中、著しく低いわが国の教育への公財政支出(GDP(国内総生産)比3.4%)を、先進国の平均的水準以上を目標(同5.0%以上)として引き上げていきます。」、「国公立大学法人に対する運営費交付金の削減方針を見直します。」と明記されています。新政権発足に際してこの政策が実行されることを当然ながら期待していました。長期的な展望に立って、大学における教育研究の充実のための公的投資が着実に拡充されることを切に願います。
また、高等教育機関への公的投資に当たっては、次代を担う「人づくり」を充実する必要があります。特に、優秀な学生が安心して進学し、教育?研究に専念できるよう十分な給付型の経済支援の充実が重要です。
2.科学研究費補助金の抜本的拡充
イノベーションの源泉は研究者の自由な発想に基づく研究活動にあり、新たな「知」を創造し続ける多様で重厚な知的基盤があってこそ、学問が発展し、社会経済に大きな変革がもたらされます。ノーベル賞を受賞された日本人研究者の研究成果からも明らかなように、長年にわたる研究の試行錯誤や切磋琢磨の中から、多くの新たな「知」や革新的な技術が生まれています。
基礎研究に対する投資の中でも、「科学研究費補助金」は制度発足以降、あらゆる分野にわたって大学等の研究者の自由な発想に基づく研究活動を支え、我が国の基礎科学力の強化において重要な役割を果たしていますが、近年、応募件数が増加する一方で科学研究費補助金の直接経費は伸びず、結果として新規採択率は低落傾向にあり、研究者個人に配分される研究経費も減額されています。また平成22年度の「概算要求の見直し」に伴い、すでに「若手研究(S)」と「新学術領域研究(研究課題提案型)」の新規課題募集が停止されていますが、これによる若手研究者の育成や新しい研究課題の提案に大きな影響が出ることは必至です。
諸外国が基礎研究への公的投資を拡大している状況において、仮に我が国がこれまで以上の予算の縮減を行った場合、我が国の国際競争力の低下が危ぶまれます。絶えざるイノベーションの創出のためには、目先の成果にとらわれず、研究開発の萌芽期を支える公的投資の着実な拡充が必要不可欠であります。
3.地域社会に貢献する大学への支援強化
地域の人材?知識が集積するいわば「知の拠点」である大学が、地域の中小企業や地方公共団体と協同して地元産業の技術課題や新技術創出に取組むことは、大学等の萌芽的な基礎研究活動を通じて創出された研究成果をイノベーションに結び付け、社会に還元していく手段として有効であり、大学を核とした人材の創出と地域活力の好循環を形成するものとして期待されています。また、平成18年に改正された「教育基本法」では、これまでの教育?研究という基本的役割に加え、「大学で生まれた成果を広く社会に提供し、社会の発展に寄与する」ことが大学の役割として明記されました。九州地域においても、近年、各大学を中心とした様々な産学官連携による取組みを通じて、地域産業の発展を牽引する人材の育成や魅力ある地域社会づくりが活発化してきています。
一方、先日の「事業仕分け」作業の議論においては、「地域科学技術振興?産学官連携」事業については「廃止」との方針が示されました。しかしながら、これらの事業を通じて、各地域では大学と地域の中小企業とが協同した技術開発や地域の課題対応のための研究活動、またそれらの活動を通じた人材育成が着実に進められ、成果が集積されてきています。例えば、福岡県を中心とする北九州地域では、「知的クラスター創成事業」を通じた、「学」がリードする効果的な産官学連携の取組みにより、「シリコンシーベルト福岡」と呼ばれる先端的なシステムLSIの世界をリードする開発拠点が整備されてきており、システムLSI関連企業もプロジェクト開始時の約9倍となる189社が集積してきております。仮に「知的クラスター創成事業」が中断?廃止されれば、計画の失速だけでなく集積した関連企業189社の雇用にも影響が及ぶことは必至です。
地域経済の活性化とともに、地域住民の質の高い安全?安心な生活の実現のため、地域における国立大学の存在意義をご理解いただくとともに、地域の科学技術の振興に係る関係事業の継続及び予算の確保?充実を切に願います
4.最後に
国民の皆様におかれましては、各大学とも引き続き国民の負託に応えるべく積極的に社会貢献に努めてまいりますので、各大学がこれまで地域の「知の拠点」として人材育成や地域の科学技術振興を通じて果たしてきた役割をご理解いただくとともに、より一層のご支援をお願いいたします。
平成21年12月14日
国立大学法人福岡教育大学長 | 大後 忠志 |
国立大学法人九州大学総長 | 有川 節夫 |
国立大学法人九州工業大学長 | 下村 輝夫 |
国立大学法人佐賀大学長 | 佛淵 孝夫 |
国立大学法人長崎大学長 | 片峰 茂 |
国立大学法人熊本大学長 | 谷口 功 |
国立大学法人大分大学長 | 羽野 忠 |
国立大学法人宮崎大学長 | 菅沼 龍夫 |
国立大学法人鹿児島大学長 | 吉田 浩己 |
国立大学法人鹿屋体育大学長 | 福永 哲夫 |
国立大学法人琉球大学長 | 岩政 輝男 |
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