人の心を動かして、健やかな良い社会に!
学際的取り組みで、健康社会を実現
健児くん(以下:◆):先生の研究について教えてください。
河村:コミュニケーション学の理論を公衆衛生学に応用した「ヘルスコミュニケーション」が専門です。人々に健康的な行動を促すためには、どのような形で情報を伝達すれば効果的かを研究しています。公衆衛生学の中でも行動科学の分野ですね。各種メディアを介した環境や行動への働き掛けが一般的ですが、対人コミュニケーションなども含まれます。
◆:公衆衛生学というと医学のイメージがあります。
河村:確かに日本では医学者が中心ですが、アメリカではいろいろな専門家が集まる学際的な分野です。例えば生活習慣病の人を減らすプロジェクトを実施する場合でも、人種による生活習慣や文化の違いといった社会科学の視点が必要なために、分野を超えたアプローチを行っていきます。
◆:多角的に考えないといけないのですね。
河村:経済学者が、どの政策を採用するとどんな経済効果が生まれるか分析したり、文化人類学者がマイノリティーの行動様式を研究したり。生物学などのミクロな分野や自然科学の研究をする人もいます。しかし専門家の理論があっても、現実社会に生かせなければ意味がない。彼らの研究成果をいかに実践するかが私の研究分野ですね。
心が動くと行動が変わる
?◆:どのような方法で実践していくのですか?
河村:社会が共有する考え方やルール、社会規範を動かすと、人々の行動が実際に変わります。健康を促すための法律や政策を作っても、すぐに全員が従うわけではありませんし、健康のための情報を発信しても関心がない人には届かない。だけど人は、例えばドラマや演劇を観て心を動かされた時には、メッセージも心に深く届きます。これを応用したのが「エンターテイメント?エデュケーション」です。教育と娯楽を融合して、正しい知識や行動を伝えるという、新しい手法です。実に人間の本質を突いているし、私は楽しいことが好きなので、日本でも実践していきたいと思っています。
◆:それが八つのオムニバスラジオドラマ「17歳の保健室」ですね。
河村:九州は人工妊娠中絶が非常に多い。それに日本は先進国なのにHIV罹患率が増えている。青少年の性について茶化したり隠すのではなく、もっと真面目にポジティブに考えてほしいと思ったのです。
モットーは理論より実践
◆:ラジオドラマはどのように作ったのですか。
河村:熊本大学放送部と熊本県立大学インターネットラジオ研究会の学生に、青少年の性の問題を提示して、それを取り上げるラジオを作りたいと協力をお願いしました。それから、どんな形式が良いか考えるワークショップを開催。高校生の典型像をまず自由に出してもらって、「このタイプの高校生には、こういう伝え方がいいよね」とマッチング作業をして、あらすじを細かく詰めていきました。
◆:その作業を通じて、学生たちに変化は見られましたか?
河村:自分たちで作っているというオーナーシップが学生の顔に表れていました。課題に対しての関心が高まり、積極的に調べたりしていく様子がとても興味深かったですね。
◆:まさに実践主義!
河村:私は思い立ったらすぐ行動する性格なので、研究でも理論構築よりまず実際にやってみてから分析しています。社会が理論通りに動くかなんて、やってみないとわからないし、研究成果はすぐ実践に生かした方が社会にも役立ちますからね。
◆:楽しみながら勉強にもなるなんて、とてもユニークで面白い研究だと思いました。河村先生の今後の研究も楽しみにしています。
(2012年7月25日掲載)
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