絵画とは自分の内面を表現するもの、磨くもの
技術よりも内面を磨く
健児くん(以下:◆):先生のアトリエにはたくさんの迫力ある絵画があって、美術館のようです!
松永:私の専門は油絵で、自分で絵を描きながら、学生にも絵画を教えています。
◆:ズバリ、絵を描く上で一番大事なことは。
松永:感性を磨くこと。感性とは、自分自身が世界をどう捉えるかという本能的な能力です。絵画を描くというのは、1枚の真っ白なキャンバスに自分の思い描く世界を自由に表現していく行為だと考えています。自分が世界をどう見ているか、何を経験して、どんな人生哲学を持っているかという感性が反映されるのですよ。
◆:絵を通して画家の内面を感じる。だから絵を見て感動が生まれるのですね。
松永:上手い絵を描こうと、技術ばかり先行しがちですが、本当は自分が何を描きたいかが大事。例えば小学生や中学生に技術ばかり教えると、「私は絵が下手だから」と委縮して絵から離れてしまいます。それよりも絵を描く意欲を高めるのが先です。文部科学省の推進により、教育委員会の取り組みで、不登校の子どもに授業をする適応指導教室というものがあり、私も絵画の授業を行っていますが、最初はみんな描き出せない。自信がないのですね。でも、描きたいという意欲が出ると、感性が自然と磨かれていき、素晴らしい作品が完成します。絵を描くことが生きがいになり、生きる自信を取り戻すのです。
アートの力で地域貢献
?◆:学生にはどんな授業で絵を教えているのですか?
松永:学生には絵画コンクール出展に向けて作品を制作させます。大切なのは、自分が表現したいものは何かを徹底的に考えること。その次に実際にどう表現するかという技術が来ます。例えば、表現したい対象を正確に捉えるためのデッサン力ですね。これは観察力に比例しますから、2時間じっと一つのリンゴを観察させる訓練などをやる。すると、どんな線を引けばリンゴが描けるか見えてくるのです。集中力、忍耐力も必要になります。
◆:先生は学生と一緒に壁画や絵馬の修復も行っていますよね。
松永:これまで産業文化会館の壁画を描いたり、熊本大学医学部附属病院の壁にホスピタルアート(*)を描きました。また、菊池市菅原神社や引水菅原神社の絵馬を修復しています。きっかけは地域の方からの依頼です。引水菅原神社の修復では、ゼミの学生を連れて5日間で短期集中型の合宿形式でやりました。
◆:合宿!どんな様子なのですか。
松永:とにかく絵を描くことだけに集中します。朝起きて、ご飯を食べて、絵を修復して、お風呂に入って、寝るだけの生活で、世の中のことなど一切考えない。学生にとっては、絵を描くのに必要な集中力、忍耐力、観察力を鍛える訓練になります。アート活動の一環でもあり、大学としての地域貢献にもなるし、集中してひたむきに絵に向き合うことで、学生の腕には自然と表現する力が宿り、次に描く作品は確実に上達しているのですよ。
*ホスピタルアート…医療?福祉施設内に壁画などを描き、患者や職員にとって心地よい空間を作ること。
感性を刺激する存在でありたい
◆:先生自身が絵画で伝えたいことは?
松永:絵画一枚の中に、私自身が感じた生命のきらめきや人生哲学を描きたいと思っています。例えば、小さなハチと花の出会いという何気ない一瞬をモチーフに、生命の神秘を表現したい。
◆:芸術家として目指すところを教えてください。
松永:「絵画表現のクオリティー」を徹底的に追求しています。売れる作品を描くのではなくて、一作品ごとにクオリティーを高めて、純粋に芸術を追求したいのです。私自身も絵画コンクールに毎年出展していて、一枚の絵画に2~3カ月、時には1年以上も向き合う。キャンバスが埋まれば完成ではなく、出展ぎりぎりまでどこに筆を入れるとよりクオリティーが高まるかを追求するのです。また、油絵以外にも絵画表現全般も研究し、例えば水墨画の空間の使い方や筆遣いを自分の油絵に応用したり、世界中から自分の絵に取り入れるモチーフも常に探しています。
◆: なぜそこまで絵画を追求するのでしょうか。
松永:私自身が人の感性を刺激する存在でありたいのです。そのためには私自身が絵画にとことん向き合って、感性を磨き高める必要がある。私はレンブラント(*)が好きなのですが、もし彼が目の前でキャンバスに向き合っていたら、例え言葉は伝わらなくても、筆遣い一つに感動するでしょう。その感動が私自身の感性を刺激する。同じように学生にも、私がキャンバスに向かう姿から、何かを感じ取ってもらえればと思っています。
◆:先生の人柄やたくさんの作品に触れて、僕も感性を刺激されました!
*レンブラント…17世紀のオランダの画家。明暗をはっきりと打ち出した表現で知られ「光と影の画家」と称される。
(2012年9月26日掲載)
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