健康寿命を延ばすために、臨床で本当に役立つ研究を!

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脂肪肝に注目して、個別の予防策を提供できるように

image02.jpg 健児くん(以下:◆):2015年7月に「日本人の約2割は肥っていなくても脂肪肝に注意」という研究結果を発表されましたが。
鬼木:非アルコール性脂肪性疾患という、アルコールや肝炎ウイルスではなく、食べ過ぎや運動不足等が原因の脂肪肝を持つ人、つまり、「肝臓の肥満症」の人が日本で増加しています。そして、日本人は、痩せている人でもこの脂肪肝を発症するという特徴がありました。その原因が、日本人の2割に発現しているPNPLA3という遺伝子の変異にあるということがわかったんです。
◆:この研究をされたきっかけは何ですか?
鬼木:非アルコール性脂肪性疾患というのは、肝臓への悪影響から肝炎、肝硬変、肝ガンという病気につながることはもちろん、糖尿病や高血圧、心臓血管疾患等、生活習慣病にも発展するものなのです。だから、この脂肪肝を予防することで、日本人の健康寿命を延ばせないか、と考えました。
◆:今回の研究結果を、今後どう発展していこうと考えられていますか?
鬼木:臨床の場で使えるところまで持っていきたいと考えています。
脂肪肝は他の遺伝的要因だけでなく個体要因も関わって発症します。個体要因というのは、その人の血糖値や体格、喫煙や飲酒歴等のことです。それらを全部組み込んだ統計学的なモデルを作成し、発症予測モデルを作成しようと考えています。それを作ることで、個別に予防していくための、個別のBMI目標値を設定しようとしているんです。現在はまだ途中段階ですが、最終的に、性別やコレステロール値、血糖値と遺伝子型を入れると、BMIの目標値が出るような式を作ろうと思っています。実際に模擬症例でやってみたところ、結果は一人ひとり違いました。そして、次のステップは、有効な予防法の提示です。単純にBMIを落とせばいいというわけではありません。脂質管理や生活習慣など、効率的に予防できる情報提供ができるところまで持っていこうと思っています。そして、いずれかは、この理論が本当に予防効果があるものなのか、モチベーションの維持につながるものなのかなどを含め、本当に活用できるように発展させたいと考えています。
◆:実際に役立つかたちに還元する、ということですね。
鬼木:臨床で使えないと意味がないと考えています。まずは人間ドックの場で実践し、検証できれば、と考えています。

一度は社会へ…大学へ戻って一般の人を対象にした研究へ

image03.jpg ◆:ところで、熊本大学では、医学部でも遺伝子研究をされている研究室があります。医学部と薬学部の大きな違いは何ですか?
鬼木:薬学部では医学部と違って診療を行っておりませんので、ヒトを対象とした研究を行うには、必然的に大学病院や他の医療機関などとの共同研究が必要になってきます。私の研究室では、複数の診療科や施設と共同研究を行っていますので、多様な考え方や研究手法を取り入れることができていると思います。また、薬学部の中では、人を対象とした研究はほとんど行われていませんが、私の研究室は人を対象とした研究に特化しています。だから、薬学部内で他の研究室から共同研究の声がかかってきたりもするんですよ。
◆:そもそも、先生が薬学の道へ進もうとされたきっかけは何だったんですか?
鬼木:気づいたら研究をやっていて、それが面白いから続けているような気がします(笑)。元々は薬剤師になって薬の開発がしたかったんです。大学院修了後、一旦は企業に就職したり、病院薬剤師を務めていた時期もありましたが、当時いらっしゃった教授からのお誘いがあり、大学へ戻ってきました。院生時代の研究を発展させたいと自分自身も思ったので、大学に戻ることを決めました。

思ったことは活発に発言を!それが新しい発想につながる!

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◆:先生の思う研究の面白みとは、どんなところなのでしょうか?
鬼木:研究をするときは、仮説を立てて検証を行いますが、仮説どおりにいくことはほとんどありません。そのとき出てくる学生の発想が面白い!そんな考え方があるんだ、なるほどな、と思うことがたくさんあります。そこから最初の仮説とは全然違う方向にどんどん進んでいって、最終的に臨床に役立つ情報に還元できるところが面白いですね。
◆:最後に熊大生へ一言お願いします!
鬼木:学生には、間違っていてもいいから、どんどん思ったことを口にしてくれるといいな、と思います。みんながそういう風にできたら、新しい発想がたくさん生まれてきます。私もなるべく声をかけるように心がけていますが、先生とディスカッションすると、もっと研究が早く進んでいくと思いますよ。
(2016年12月13日掲載)
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