身近な現代日本語の観察から見える新しい社会の見方

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身の回りのすべてが研究対象になる「現代日本語学」

健児くん(以下:◆):先生の研究内容を教えてください。
茂木:私が専門にしているのは日本語学で、現代日本語を研究しています。小説や新聞、マンガなどの書かれた日本語だけでなく、しゃべっている日本語や、インターネットのブログやSNSで使われている、いわゆる「打ち言葉」も研究対象になります。そもそも、私たちは、どうやって日本語を話しているのか、普段はあまり意識していません。意識しなくても、間違わずに話すことができます。でも、使えているけれど、どんなルールで文や文章を組み立てているのか深く考えることはありませんし、実際、頭の中でどのように組み立てているのかもわかっていません。わからないと知りたくなってしまう、それが研究の入り口だと思うんです。
現代日本語の中でも、専門としているのは、文法と語彙です。文法は学生の頃からやっているライフワークで、特に助詞を研究対象にしています。語彙で関心があるのは外来語。ポスドクとして国の研究機関にいたとき手がけたのがきっかけですが、実際に外来語がどのように使われているのかを研究しています。
◆:外来語の使い方にはどんな問題があるんですか?
茂木:たとえば「ヒットする」という言葉があります。流行する、魚が釣れる、パンチがあたる、など「当たる」という意味合いで使われる外来語です。これらの意味は辞書にも載っています。「ヒットする」にはさらに、インターネットで検索したときに「○件ヒットしました」というような用法もあります。「見つけ出した」というような意味なのですが、この用法は、まだあまり辞書に記載されていない、新しい使い方です。私たちは、知らないうちに「ヒットする」の使い方をなぜか習得していて、それが新しい使い方であることを知らないうちに、使いこなしているんです。このような見えないところで起きている変化について調べ、分析することも大事な仕事の一つだと思っています。
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日本語学がどのように社会とつながるかを考える

◆:先生は国語教育や日本語教育の分野でも論文を書かれたりしていますね。
茂木:日本語に興味を持ったのは、高校時代です。国語の先生の1人に、外国の人に日本語を教える日本語教育をしていた方がいました。もともと国語は好きだったので、日本語を教える仕事は楽しそうだと思って、日本語教師を養成している学部に進学しました。大学では日本語の教え方の授業もあったのですが、そもそも日本語のことを理解していないと教えられないということで、日本語学の授業がたくさんありました。そこで、高校までに習った文法などの内容が、日本語学でわかっていることの一部であることを知ったんです。日本語にはわかっていないことがものすごくたくさんあって、それを研究することが面白い、と思いました。それで、日本語研究の道に入ったんです。
大学院を出て、最初に就職した大学は、教育学部だけの小さな大学でした。その大学には現職の先生が修士課程に研修で来るのですが、現役の先生ですから、学んだことをどうやって、実際の授業の役に立てるか、ということを考えています。私も、どうやったら、教育に役に立つ形で自分の学問を提供できるか、常に考えていましたね。今でも国語教育や日本語教育について授業で話しています。自分たちの研究がどのように社会の問題を解決するのかを意識して発信していくことで、われわれの研究の面白さや着眼点などを伝える役割を果たしていきたいと思っています。
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収集することで違いが見える

◆:今、先生が興味を持っているのはどんなことですか?
茂木:最近は、地域貢献という意味も込めて、熊本地震に関わる言葉の問題について調べています。熊本地震についていろいろな記録や分析が出てくる中で、日本語研究者はどのような記録を残せるかと考えた時、復興スローガンが目に入りました。「がんばろう熊本」の他にも「がんばるばい熊本」や「負けんバイ熊本」など、さまざまなスローガンが、あちこちに掲げられています。大きな災害の際、どんな表現で自分たちを奮い立たせていたのか、それがどのように減っていき、平時に戻っていくのか、そのプロセスを分析したいと思っています。この観察は2016年の6月から始め、上通や下通で定点観測として写真を撮り、推移や表現の変化を調べているところです。東日本大震災の際にも復興スローガンの研究がなされたのですが、熊本でもしっかり記録に残したほうがいい、と思っています。
復興スローガンの場合もそうですが、物事は1つだけ見ていても、それがどんなものなのか考えることはなかなかありません。2つ以上あると比べるようになり、比べると「なんでだろう」がでてくる。どこが違うのか、なぜ違うのかと考えるようになるんです。私には収集癖があるんですが、集めるというのは観察の基本だと思っています。日常に転がっているものに気づき、集めてみることで、研究の一歩が始まるのだと思います。
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教員の役目は種まき、育てて花を咲かせるのは自分

◆:学生の皆さんに一言お願いします。
茂木:熊大の学生さんは真面目だなと感じます。でも授業の内容で満足してしまう傾向があるな、とも感じます。大学の授業は、受けたら勉強が終わり、というものではなく、そこで感じた疑問や興味を自分で深めていくためのきっかけだと思っているんです。教員がやるのは種まき。そこから先は、自分で自由に深めて育てていってほしいですね。そのために大切なのは、好きなこと、興味を持てることを見つけることだと思っています。私の研究室では、卒業論文のテーマを決めるのに、自分の興味をもったことから入っていく学生が多いです。バンドをやっている学生は日本のバンド名に関する研究をしましたし、ファッションが好きな学生は、ひたすらファッション雑誌を読んでそこで使われている表現を分析しました。就活の不採用を伝える「お祈りメール」の分析をした学生や、大学で熊本と福岡の方言の違いに気づいて論文のテーマを考えた学生もいました。
いずれにしても、よく見れば、身近なことの中には興味をひくことや面白いことがたくさんあるはずです。私たちは興味があることを学生の代わりに見つけてあげることはできません。でも、1つ、興味があることを見つけて、そこにある謎を解き明かすことができれば、それをやり遂げた、大学の勉強をした、専門を持った、という実感もでてくるはず。大学や教員の仕事は、研究のサポートをすることです。遠慮なくチャレンジして、どんどん好きなことを突き詰めてほしいですね。
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(2017年12月11日掲載)
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マーケティング推進部広報戦略室
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