国の違いを超えて問題解決できる、法のあり方を探る

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国際的な民法や商取引を扱う「国際私法」

健児くん(以下◆): 先生の研究分野を教えて下さい。

松永先生: 国際私法を中心に研究しています。一般的に国際法というと、領土問題や紛争など、国と国の問題解決を扱っている法律をイメージすると思いますが、これは、正式には国際公法と言います。

私が主に扱っている国際私法は、民法や商法、国際取引法などの法律で、国境を超えた場合の問題について扱っています。国が違えば、法律の基本的な考え方も変わります。法律がその国の宗教や文化、伝統を反映して作られるものだからです。例えばカトリックの考え方では婚姻は神様が結んだ縁なので、カトリックの影響が強い国では離婚をするのが日本より難しい国も多いですし、離婚制度のない国もあります。婚姻ができる年齢も国によって異なります。18歳で結婚できる国と20歳以上で結婚できる国の留学生が出会ったら、結婚できない、ということもあるんです。

私法の分野でどの国の法律を適用するのかを考える場合は、どの国の法律も平等に扱い、当事者や事案によって、一番適切な法律を選んで適用しようと考えます。各国の考え方や価値観を尊重しているという点に興味を持っています。

扱っているのは私法の全分野。特に契約に関する問題や国際家族法の問題に取り組んできました。


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法律の統一と尊重。納得できる形を模索する

◆: 先生は国際的な問題に興味を持っておられたんですか?

松永先生: 小さいころから、いろいろな国の国際紛争問題の話を聞いて、なくなればいいのに、とは思っていました。でも一つの国になればいい、というものでもありませんよね。そう思っているとき、国際取引の世界では、国の違いを乗り越えて、議論しながら妥協点を見出して調和しようという動きがあることを知りました。そこで取り組んだのが国際取引法における「書式の闘い」の問題です。お互いに有利な条件にしようと、自分に条件のよい契約条件(書式)を送り合うことを言うのですが、それが続くと、契約自体への合意までに時間がかかってしまいます。さらに、契約の内容だけに議論が集中し、なにか起きたときにどこの国の法律に準拠するのか、などの部分を話し合わないまま契約してしまうこともあるんです。合意ができていない部分があれば、契約全体が成立しなくなることもあります。どんな場合にどんな内容を契約内容とするか、という問題をメインに論文にまとめました。

今では国際的な法統一はだいぶ進んできています。国連の国際商取引法委員会でできた統一法などもあります。法律を統一しようという動きを「ハーモナイゼーション」と言い、世界的な動きになっています。

一方、家族法などの国際私法は、それぞれの国の法律を統一していくのではなく、それぞれの国の考え方や価値観を尊重して、どのように適用するかを考えます。2つの考え方は反対を向いているようですが、両方があることで、国際社会は成り立っています。関わる人が納得できる形を探ろうとしている動きに、とても魅力を感じています。

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サバティカル研修で台湾の家族法に興味

◆: 先生は台湾へも行かれていたそうですね。

松永先生:2016年の4月から、サバティカル研修をいただいて、台湾の東呉大学で学びました。日本ではドイツ法などヨーロッパの法律を研究している人が多いのですが、アジア法は少ないんです。中でも台湾の法律について教えてもらえる先生がいなくて、調査してみたいと思いました。台湾の外交部(日本や世界各国の外務省に相当します)から台湾奨助金Taiwan Fellowshipのフェローとして研究資金を受奨できたこともあり、じっくり研究することにしたんです。

台湾では、家族法に関する国際民事訴訟法が日本より早くできています。同性婚の合法化も発表され、家族法についてかなり動いていました。そこで、台湾における国際家族法の分野について調査、研究を行いました。ほぼ1年間台湾にいたので、いろいろな出会いもありました。そんな強みを生かして、台湾の方と一緒に研究できたらいいな、とも思っています。

実は、昨年子どもが生まれて、家族法への興味も身近になったと感じています。家族法は、子どもの福祉を重視する分野です。子どものことを身近に感じられるようになったことで、いろいろな事件を深く考えるようにもなったと思います。

法律を研究している方は、割と一つの分野を専門に取り組まれることが多いのですが、私はこれまでも、興味のむくまま、いろいろな分野に取り組んできました。大学時代のゼミの先生には「もう、分野を変えないでね」と言われたほどです。でも、違う方向を見ているような国際私法と国際取引法の両方を扱うことで、それぞれが補完して機能していることがわかります。さらに、国際通貨の問題などの現代的な問題に対しても、新しい解決法や考え方を提示できるのではないかと思っています。


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優しい先生たちに、積極的に相談に来てください!

◆: 学生のみなさんへひと言お願いします!

松永先生: 学生のみなさんは、もっと積極的になったらいいんじゃないかなと思います。興味がある分野があれば、どんどん相談して質問してほしいですね。熊大の先生は本当に学生思いの優しい先生が多いです。いろいろな悩みにもきっと答えてくれます。

私自身、いろいろな出会いに支えられ、いい影響を受けてきたことが今につながっています。大学は自由なところです。ぜひ、なんでも、思ったことを言いに来てください!
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(2020年1月21日掲載)

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