心の動きの秘密を解き明かすことで、 人の関係づくりの支援につなげる心理学
人の心に影響を及ぼす生物学的要因にも注目
健児くん(以下◆):先生の研究について教えてください!西川先生:私がこれまでやってきたのは、思春期?青年期のメンタルヘルスについて。もともと人間関係が人の精神的健康にどのくらい影響を与えるかに興味があり、親子関係や友達との関係などをアンケート調査で調べてきました。
でも、アンケート調査にはどうしても限度があります。そこで、親子関係など環境的要因だけでなく、生まれながらにもっている生物学的要因にも着目したんです。
遺伝子の型が認知機能やメンタルヘルスにどのように作用するのか、遺伝子や脳の活動を測定したりして研究できればと思っています。
そう考えるようになったきっかけは、以前、研究員として入っていた長崎大学の医学部です。そこで心理学的なものと生物学?医学的な研究を融合させた研究を行っていました。心理学の分野にこの考え方や手法を取り入れたら面白いんじゃないかと思っています。
自分で考え、学んだスウェーデン留学
◆:心理学に興味をもったきっかけは?西川先生: 私は学部と大学院で10年くらいスウェーデンに留学していました。英語圏ではない国に行ってみたいと思ったのと、中学のときから文通していた人がいたのでスウェーデンに決めたんです。
最初の1年は、英語で受けられる面白そうな授業をいろいろ選択しました。福祉や環境学などスウェーデンで進んでいる分野の中に心理学がありました。
人の心を深く考えるという曖昧さはありますが、人が話したことや書いたものから心の動きを読み取るというところはとても面白いと思いました。自分に当てはまることもあるんですよね。
1年間学んで心理学にすっかりはまってしまって、そのままスウェーデンで大学院に進むことにしたんです。
◆:スウェーデンの大学はどんな感じでしたか?
西川先生:とにかく、自分で勉強することを求められました。受け身ではだめで、自分で考えて、自分で学んでレポートや論文を書く感じです。しっかり勉強してから授業に行ってました。今思えば、指導の先生はもどかしかったろうと思います。自分でやったほうが早いと思うこともあっただろうと。
今、私は学生を指導する立場になりましたが、教える立場には忍耐力も必要だったんだなと思います。
一人ひとりの支援につながる研究をしたい
◆:今後は、どんな研究をされていく予定ですか?西川先生:今は顔の表情の読み取りについて研究をしています。表情はコミュニケーションの基本。でも、表情を読み取る能力には個人差があるんです。発達障害や自閉傾向の人には、笑い顔は読み取れるけど怒り顔は苦手という人もいます。
タブレット端末を使ってゲームをする中で、どんな表情が読み取れているのかを測定しています。
表情を読み取る力とコミュニケーション能力の関連性が分かれば、発達障害の人を支援する学校の先生や保護者の支援にもなると思っています。その中にホルモンの関係や脳の活動の測定などもいれていきたいです。
私は今、附属中学校のカウンセラーもやっています。特徴を統計的にまとめて論文にすることも大切ですが、支援が必要な親や子のサポートもできるようになりたいです。悩んでいる人に貢献ができるようになったら、心理学をやってよかったと思えるんじゃないかと思います。
心理学は本を読んで、アンケート調査をして、というイメージもありますが、実験をしたり、生物学などとの連携を行うことでまだまだ発展できる可能性がある学問だと思います。面白いと思うことに挑戦していきたいです。
今社会に起こっていることに興味をもって広い視野を持とう
◆:学生の皆さんに、メッセージをお願いします!西川先生:私のゼミでは最初に「わからないときは相談に乗るけど、まずは自分で考えてやってね」と伝えています。必要なところは助言をしますが、基本的には自分でしっかり考えてほしいです。
そのためには今、社会で起こっていることを知っておくのが一番勉強になると思います。私が高校生のときには、関心は外向きで自分の国で何が起こっているのかには興味があまりありませんでした。でも、いざ、留学してみると、自分がいかに自分の国のことを知らないかに気づかされました。
心理学の研究テーマは社会で何が起きているのか、とリンクしたところにあると思っています。例えば、発達障害の人がどれだけ困っているのか、引きこもりの人がどれだけいるか。今ならコロナウイルス感染症拡大防止対策下の社会が人にどんな影響を与えているか、など、社会の流れで新しいトピックが生まれてきます。
だからこそ、社会を知って、広い視野を持ってほしいですね。
(2020年9月8日掲載)