熊本をマンガ県に!マンガ文化の価値を受け継いでいく研究
多様な手法でマンガ文化の価値や役割を再評価する研究
学生広報スタッフ(以下◆):マンガ研究について教えてください!日高先生:マンガ研究は、対象がマンガというだけで、マンガ研究に固有の方法があるというわけではないんですよね。例えば、作品や作家について研究する場合には、文学研究っぽいアプローチになりますし、マンガに関連した社会的な現象などを考えていく場合には、社会学的なアプローチになります。
もう少し具体的に説明するために、私が最近関わった、今年2月出版の『ザ?少女マンガ!忠津陽子の世界』(立東舎、2021年)という本を紹介しますね。この忠津陽子さんという方は、昔、少女マンガの作者としてすごく人気があった方なのですが、現在はあまりこの方の作品は読まれていないんです。この本は、忠津陽子さんが少女マンガの歴史において、いかに重要な作家だったのかということを振り返る、という内容になっています。研究の視点で言うと、きちんと重要性が引き継がれていない、認識されていない作家の再評価を行う意図がある本なんです。
実は、この本の巻末に収録されている、「年譜と作品リスト」というのが研究的には非常に重要です。単行本にまとまっていない作品もたくさんあるので、作者が、いつどの雑誌でどのような作品を発表したというデータを揃えるというのが1番大事な作業だったりします。ですから、作者にインタビューをする場合には、その前にこの作品リストができていないといけないんです。このリストをもとに、「この時こんな作品を出していますが…」という感じで、インタビューを行っていくので、この作品リスト作成は、1番大変ですし1番重要な仕事だったりします。
私はこの本では、「[論考]ラブコメの女王?忠津陽子」(p.149-154)という部分を担当していて、少女マンガ史における忠津陽子さんの位置づけを文章でまとめました。これを書くにあたっても、もとになるデータが必要なので、年譜と作品リストというのが重要になってきますね。この点では、少し文学研究に似ているなと思いますね。
鈴木先生:日高先生もおっしゃいましたが、マンガというのは研究対象であり、私の場合、手法は民俗学です。普通の人の普通の暮らしの中で、マンガがいつ頃からどういう役割を果たしてきたか、今後どうなるかという点に関心があります。
例えば、先ほど日高先生が挙げてくださった忠津陽子さんは、一世を風靡し、かつ、その時代のみんなが読んでいた少女マンガのある種の典型を作った人なのですが、後世に評論が多く残るような作家さんではないんです。しかし、たくさんの人がその世界に憧れて忠津さんの作品を読んでいたわけですから、当時の読者はどういう風にその作品を読んで、何を思ってきたのかという点に民俗学的な関心があって、マンガを対象として研究しています。
◆:先生がマンガ研究を始められたきっかけは何でしょうか?
日高先生:私は中学生くらいの時に、テレビで『BSマンガ夜話』という番組を見て興味を持ったことがきっかけの1つですね。これは、1つの作品について漫画家や評論家などが4~5人で語り合うという番組でした。作品としては、少女マンガや少年マンガ、青年マンガなどを扱っていました。
鈴木先生:私の場合は民俗学なのですが、きっかけは、子供の頃に見ていた『ゲゲゲの鬼太郎』ですね。水木しげるさんの妖怪画が好きで、妖怪のことをよく知りたいと思って民俗学を学び始めました。
日高先生が挙げてくださった『BSマンガ夜話』ですが、その司会を務めていたのが民俗学者の大月隆寛さんで、日本のマンガ研究の始まりに、色々な形で民俗学者も関わっているんですよね。先ほど私が言ったような、普通の人の普通の暮らしを考えるうえで、マンガというのは重要なのだろうと思います。
私自身、子供のころに妖怪のマンガを読んで好きになって、幸いにしてそのまま民俗学者になれたということを考えると、特に子供の頃に出会うマンガは、やはりその人に色々な影響を与えますよね。人生観や職業観とか。例えば、『ブラック?ジャック』を読んで医者になりたいとかですね。そういう風に影響を与えるメディアって大きい存在だなということで、自然と研究を始めていったという流れですね。
鈴木先生:私が改めて強く感じるのは、マンガというのは世代を超える共通言語になり得るということですね。戦後70数年たつ中で、名作もたくさん生まれています。子どもが、親あるいは祖父母からある作品を受け継いで読んで、それにすごくハマったということがよくありますが、そういうかたちでの文化の継承のもつ意味合いは、今後ますます強くなっていくと感じています。
◆:先生が考えるマンガ研究の醍醐味は何でしょうか?
日高先生:マンガ研究は、マンガという身近なものが研究の対象ですよね。マンガ研究に限ったことではないですが、やはり身近なものというのはよく知ったつもりでいて、研究することは特にないと考えがちなんですけれども、マンガ研究を通して、実はよく知らないことがたくさんあることに気付く体験ができるというのは、良い点だと思います。
また、マンガについて研究が進むと、作品の楽しみ方の幅が広がります。例えば、歴史やジャンルの中の蓄積を知っていると、作品をもっと面白く読めると思います。
マンガ研究で“熊本をマンガ県に” ワールドワイドな展開を期待
◆:現在お二人が取り組んでいる研究や活動について教えてください!日高先生:最近は、ラブコメの研究をしています。頑張って研究を続け、本を書きたいと思っています。もう1つは、熊本大学にマンガに関するセンターの設置が検討されており、設置に向けての準備を進めています。
鈴木先生:私は、研究としては、人吉?球磨をはじめとする熊本の妖怪文化の発信に取り組んでいます。簡単に言うと、河童というのは水神信仰ですよね。熊本県における河童の伝承を人吉?球磨を中心として、全国的に重要なものとして位置づけるというのがテーマです。
さらに活動としては、日高先生がおっしゃっていたマンガに関するセンターのお話とリンクするのですが、“熊本をマンガ県にする”という運動を進めています!
◆:マンガ研究を扱っている、現代文化資源学コースならではの学びや特徴は何でしょうか?
鈴木先生:“熊本をマンガ県にする”という話に通じるのですが、熊本大学に、マンガに関するセンターを作ろうという構想があります。これは、マンガの大規模なアーカイブを作ろうというものです。この趣旨に共鳴して、日本中からマンガの雑誌や単行本が熊本に送られてきています。他にはない、マンガについての膨大な資料が熊本大学にはあるということです。マンガというのは、大量生産?大量消費の文化ですよね。だから、ほとんどのものは大量消費で、読み捨てられて消えていきます。消えていくものというのは普段注目される機会もなく、名作と呼ばれるものだけが残ります。そうすると、大量にある作品の中の上澄みの部分だけで、マンガの歴史などは語られざるを得なくなるわけです。でも、丁寧に昔のマンガ雑誌などを見てみると、「この時代のマンガって今はこんな風に語られているけど、実際は全然違うな」という側面がいくつも見えてきます。つまり、常識として語られているもの以外の面をたくさん学べるだけの資料を持っているというのは、現代文化資源学コースならではですね。
◆:最後に、マンガ研究の今後の展望や、先生の意気込みを教えてください!
日高先生:マンガやアニメに対する海外からの関心は高いので、熊本大学にマンガに関するセンターができると、今後はワールドワイドな展開が期待できると考えています。
鈴木先生:マンガは、基本的には風刺の要素が強いというところから始まっています。マンガって、面白い物語の中で、教育の上で都合が悪いような、表向きのきれいごとや、メディアでよく言われている一般論ではないような、これらの様々な「毒」が入っているからこそ面白いと思うので、常識に囚われないことを、みなさんに読み取ってもらいたいです。
(2021年11月12日掲載)