ヒトiPS細胞からつくった腎臓の元細胞を増やすことに成功  ~腎臓の再生医療に向け前進~

【ポイント】

  • ヒトiPS細胞※1から作成した腎臓前駆細胞※2を、アクチビン※3を使って試験管内で増やすことに成功した。
  • 増やした腎臓前駆細胞は、腎臓の重要な組織である糸球体※4と尿細管を形成した。
  • 増やした腎臓前駆細胞は凍結保存でき、融解後も糸球体と尿細管を形成した。
  • iPS細胞から作成した腎臓前駆細胞を増幅し凍結保存することで、病態再現や薬剤開発の研究に発展することが期待できる。

【発表概要】

 熊本大学発生医学研究所の研究グループ(谷川俊祐助教、西中村隆一教授ら)は、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす方法を開発しました。

 尿の産生や血圧の調節など生命の維持に必須の器官である腎臓は一度機能を失うと再生しません。胎児期には尿を産生する重要な組織であるネフロン(糸球体と尿細管)が腎臓前駆細胞から作り出されます。しかし、その細胞はヒトの腎臓が出来上がる出生前に消失してしまうため、そのことが腎臓が再生しない理由の一つとされています。西中村隆一教授らの研究グループは2014年に、ヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する方法を報告しました。さらに2016年には、iPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞をマウスに移植すると糸球体のポドサイト※5が成熟することを証明し、2018年には患者由来のiPS細胞にこれらの方法を応用して小児腎臓病の初期状態再現を報告しました。これらの方法を薬剤開発や再生医療に応用するためには、前駆細胞を大量に増やす必要があります。2016年に谷川助教らはマウスの胎仔から単離した腎臓前駆細胞の増幅法を報告しましたが、ヒトiPS細胞から誘導した腎臓前駆細胞の増幅には限界がありました。

 今回、谷川助教らは、ヒトiPS細胞から作成した腎臓前駆細胞を試験管内で増やす際にアクチビンが有効であることを発見しました。さらに、増やした腎臓前駆細胞は凍結保存でき、融解後も腎臓組織を形成する能力を保っていることを示しました。これによりヒトiPS細胞から腎臓前駆細胞を誘導する2週間の時間と複雑な操作を省略し、これらの技術を習得せずとも腎臓組織を作ることが原理的に可能となりました。

 本研究は、ヒト腎臓前駆細胞をiPS細胞から作成し、腎臓組織を作る能力を保持しながら増幅させ、さらに凍結保存することを可能にしたものです。この成果は、患者由来iPS細胞から作成した腎臓組織の病態解明や薬剤開発の研究、さらに腎臓組織を再構築する再生医療につながることが期待されます。

 本研究成果は、科学雑誌「Stem Cell Reports 」オンライン版に8111:00 AM(アメリカ東部時間)【日本時間の8月2日 0:00 AM】に掲載されました。

※本研究は、熊本大学の江良択実教授と広島大学の山本卓教授らとの共同研究です。文部科学省科学研究費補助金及び日本医療研究開発機構の支援を受けました。


【用語解説】
※1 iPS細胞:皮膚や血液などの体細胞から作られた万能細胞。
※2 腎臓前駆細胞:腎臓において尿を産生するネフロン(糸球体と尿細管)という組織を作り出す元の細胞。
※3 アクチビン: 当初、卵胞刺激ホルモンを促進する因子として同定されたタンパク質で、中胚葉誘導を含め様々な生命現象に関わる。BMPと正反対の作用を持つことが多い。
※4 糸球体:腎臓内で血液から尿をろ過する部位。
※5 ポドサイト:糸球体のろ過機能を司る細胞。複雑な突起と特殊なろ過膜をもつ。


【論文情報】
論文名:Activin is superior to BMP7 for efficient maintenance of human iPSC-derived nephron progenitors
掲載誌:Stem Cell Reports, in press (2019)
著者:Shunsuke Tanigawa, Hidekazu Naganuma, Yusuke Kaku, Takumi Era, Tetsushi Sakuma, Takashi Yamamoto, Atsuhiro Taguchi, and Ryuichi Nishinakamura.
doi:org/10.1016/j.stemcr.2019.07.003
URL:https://doi.org/10.1016/j.stemcr.2019.07.003


【詳細】
? プレスリリース本文(PDF584KB)

お問い合わせ

熊本大学発生医学研究所 腎臓発生分野
助教 谷川 俊祐(たにがわ しゅんすけ)
電話:096-373-6617
E-mail:shunsuke※kumamoto-u.ac.jp


熊本大学発生医学研究所 腎臓発生分野
教授 西中村 隆一(にしなかむら りゅういち)
電話:096-373-6615
E-mail:ryuichi※kumamoto-u.ac.jp


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