減数分裂における父方由来?母方由来の染色体のマッチングを“大黒柱”として支えるタンパク質の役割を解明
【ポイント】
- 生殖細胞を作るために必要な減数分裂時に、染色体同士のマッチングを正常に行うための監視役を果たす因子が、コヒーシンとよばれるタンパク質の働きを借りて機能することを明らかにしました。
- 父方由来、母方由来の染色体の遺伝情報の交換を行う場である軸構造の“大黒柱”として、コヒーシンが極めて重要な役割を担っていることを明らかにしました。
熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎准教授のグループは、東京大学定量生命科学研究所の藤原靖浩助教?岡田由紀教授の研究チームとの共同で、精子?卵子の形成に必要な減数分裂の過程で父方由来、母方由来の染色体がマッチングして遺伝情報の交換を行う「相同染色体の対合」において監視役を果たす因子を呼び込む仕組みを明らかにしました。これまで、減数分裂の過程で染色体が遺伝情報の交換を行う仕組みの詳細は明らかになっていなかったため、今後不妊症の原因解明などの生殖医療の進展につながる可能性があります。
本研究成果は、令和2年9月15日(水)11時(米国東部時間)に、科学学術誌「PLOS Genetics」のオンライン版に掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(非ゲノム情報複製)の支援を受けて実施したものです。
【発表概要】
卵巣や精巣では減数分裂と呼ばれる特殊な細胞分裂が行われて卵子や精子が作り出されます。このとき父方、母方の2つの同じ種類の相同な染色体が整列する「相同染色体の対合」と呼ばれる過程を経て、減数分裂組換えによって遺伝情報の部分的な交換が行われます(図1)。「相同染色体の対合」は父方DNAと母方DNAをマッチングさせて、それらの間でDNA配列の交換を促進するために必須の過程ですが、これがうまくいかないと減数分裂組換えが正常に起きずに卵子や精子の形成ができなくなってしまいます。この「相同染色体の対合」には正確にマッチングが起きているかを監視するメカニズムがあることが知られています。しかしながら、その「相同染色体の対合」の監視役を染色体の上に呼び込むメカニズムの詳細は不明な点が多く、その機能破綻は不妊症などの生殖医療とも直結する重要な問題でありながらあまりよく解明されていない課題でした。熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎准教授と東京大学定量科学研究所の岡田由紀教授?藤原靖弘助教のグループは、「相同染色体の対合」においてコヒーシンと呼ばれるタンパク質が「相同染色体の対合」の監視役の因子を呼び寄せることを明らかにし、染色体を束ねる軸構造のいわば“大黒柱”として重要な役割を担うことを突き止めました。
【論文情報】
論文名:Meiotic cohesins mediate initial loading of HORMAD1 to the chromosomes and coordinate SC formation during meiotic prophase.
著者:Fujiwara Y., Horisawa-Takada Y., Inoue E., Tani N., Shibuya H., Fujimura S., Kariyazono R., Sakata T., Ohta K., Araki K., Okada Y., Ishiguro K. ?
掲載誌:PLOS Genetics? (2020) 1009048
DOI:10.1371/journal.pgen.1009048
【詳細】
プレスリリース(PDF405KB)
お問い合わせ??
熊本大学発生医学研究所 染色体制御分野
准教授 石黒 啓一郎
電話:096-373-6606
E-mail:ishiguro※kumamoto-u.ac.jp
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