プリオノイドを促進するRNAの形「G4」ー新たな神経変性治療ターゲットの発見ー

【ポイント】

  • 遺伝性の神経疾患「脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)」の発症には、原因遺伝子の異常な繰り返し配列が形成するRNAの特殊な構造「グアニン四重鎖構造(G4)」が関与することを明らかにした。
  • G4はプリオノイドタンパク質「FMRpolyG」の凝集を促進し、神経障害を引き起こすことを発見し、この病態発症メカニズムを「G4プリオノイド」とした。本メカニズムに基づき、「5-アミノレブリン酸」が神経障害(神経変性)の治療に有効であることが示唆された。
  • 「G4プリオノイド」はFXTASだけでなく、アルツハイマー病やパーキンソン病に共通するメカニズムであることが予想され、5-アミノレブリン酸について今後治療薬の適応拡大が期待される。

【概要】

 熊本大学発生医学研究所の塩田倫史独立准教授、矢吹悌助教、朝光世煌研究員らの研究グループは、「脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS)」1における神経機能異常のメカニズムおよび治療候補薬を発見しました。

 FXTASは、国の難病に指定されている遺伝性の神経変性疾患で、原因遺伝子の一部にある繰り返し配列(CGGリピート)数の異常によって引き起こされます。塩田准教授らは、解析の結果、CGGリピートRNA由来の「グアニン四重鎖構造(G4)」2が、プリオノイドタンパク質3のひとつである「FMRpolyG」の凝集?細胞間伝播の核となり、神経機能の異常を引き起こすことを明らかにし、この病態発症メカニズムを「G4プリオノイド」としました。
 また、「プロトポルフィリンIX」という物質が、G4に結合してFMRpolyGの凝集を抑制するとともに、FMRpolyGの産生も抑制することを明らかにしました。そこで、体内のポルフィリン合成経路によってプロトポルフィリンIXに代謝される薬剤「5-アミノレブリン酸」をFXTASモデルマウスに経口投与し、モデルマウスで見られる神経機能異常が改善されるか検討しました。結果として、5-アミノレブリン酸はFXTASモデルマウスで低下した神経伝達機能?認知機能?運動機能を有意に改善することが分かりました。5-アミノレブリン酸は安全性の高い既承認医薬品であり、神経難病である「ATR-X症候群」における認知機能の低下にも有効であることが既存の研究により示されています(参考文献1, 2。このことから、FXTASの神経機能異常に対しても改善効果を示すことが期待されます。

 なお、近年、ゲノム解析によりFXTASと同様のCGGリピートに由来する疾患(トリプレットリピート病)が多数報告されていますが、本研究により発見した病態発症メカニズムを基盤として、トリプレットリピート病に対する治療の進展が期待されます。さらに、アルツハイマー病やパーキンソン病等の神経変性疾患には、プリオノイドが関与することが示唆されています。従って、本研究により発見されたG4によるプリオノイド機構「G4プリオノイド」を基盤とした神経変性疾患に対する治療が期待されます。

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 本研究成果は、日本医療研究開発機構(AMED)難治性疾患実用化研究事業(JP19ek0109235; JP20ek0109425)、MEXT/JSPS科研費(JP16K08265; JP19H05221; JP20H03393; JP20K15417; JP20J00520; JP19K16369) 、アステラス病態代謝研究会、第一三共生命科学研究振興財団、かなえ医薬振興財団、三菱財団、国立大学法人熊本大学国際先端研究拠点およびトランスオミクス医学研究拠点ネットワーク形成事業の支援を受けて、米国科学振興協会(AAAS)が発行する科学誌「Science Advances」に令和3年1月13日午後2時(米国東部標準時)(日本時間1月14日午前4時)にオンライン掲載されました。

【用語解説】

※1. 脆弱X随伴振戦/失調症候群(FXTAS; Fragile X-associated tremor/ataxia syndrome): X染色体に存在するFMR1遺伝子のCGGリピート配列が、子に受け継がれる内に次第に延長し発症するトリプレットリピート病の一種。正常なリピート数は45回以下だが、55~200回のリピートがあるとFXTASを発症し、中年以降から認知機能障害、精神症状やパーキンソン病様の症状を示す。

※2. グアニン四重鎖構造(G4):DNA、RNAの高次構造の一種。グアニンに富む核酸配列で形成される。4つのグアニンが四量体を作った面(G-カルテット)が2面以上重なった構造体。その構造特性からG4とも呼ばれる。

※3. プリオノイドタンパク質:牛海綿状脳症(BSE)やクロイツフェルト?ヤコブ病など、脳に異常なタンパク質が沈着し、脳神経細胞の機能が障害される病気(プリオン病)の病原体であるプリオンと同様な性質を有しているタンパク質のこと。正常タンパク質が異常タンパク質に変換し、細胞間伝播により病変を拡大するという学説をプリオノイド仮説と呼ぶ。

【参考文献】

参考文献1; Shioda et al., Nature Medicine 24, 802-813. (2018)

参考文献2; Wada et al., Congenital Anomalies 60, 147-148. (2020)


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【論文情報】

?論文名:CGG repeat RNA G-quadruplexes interact with FMRpolyG to cause neuronal dysfunction in fragile X-related tremor/ataxia syndrome.
?著者名?所属:Sefan Asamitsu#, Yasushi Yabuki#, Susumu Ikenoshita, Kosuke Kawakubo, Moe Kawasaki, Shingo Usuki, Yuji Nakayama, Kaori Adachi, Hiroyuki Kugoh, Kazuhiro Ishii, Tohru Matsuura, Eiji Nanba, Hiroshi Sugiyama, Kohji Fukunaga, Norifumi Shioda*. (# Co-first authors; * Corresponding author)
?掲載雑誌:Science Advances
?doi:10.1126/sciadv.abd9440
?URL:https://advances.sciencemag.org/content/7/3/eabd9440

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF830KB)

お問い合わせ??

熊本大学発生医学研究所 発生制御部門
ゲノム神経学分野
担当:准教授?塩田 倫史(しおだ のりふみ)
電話: 096-373-6633
e-mail: shioda※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)