極小の貴金属ナノ粒子を合成する技術を開発
【概要説明】
国立大学法人熊本大学(所在地:熊本県、産業ナノマテリアル研究所 真下茂特任教授、依田真一客員教授)と京石産業株式会社(本社:京都府、代表取締役 土井善夫)は共同で、熊本大学独自の液中パルスプラズマ法を用いて貴金属※1でこれまでにない極小のナノ粒子※2を合成する技術を開発しました。本技術によって、平均粒径1nm以下の金、平均粒径2nm以下のパラジウムや白金ナノ粒子の合成に成功しました。 これらのナノ粒子は、触媒?医療材料?抗菌材料などへの応用が期待されます。
なお、熊本大学と京石産業株式会社は、令和2年7月17日に共同で本発明の特許出願を行いました。
【主な特許内容】
- 本発明は、液中パルスプラズマ法の液中繰り返し火花放電※3で、ピーク電流を2倍以上に上げることにより、貴金属で平均粒径2nm以下のこれまでにない極小ナノ粒子を合成する技術を開発することに成功しました。
- 本発明によって、平均粒径が測定限界以下である1nm以下の金ナノ粒子、平均粒径2nm以下のパラジウムナノ粒子、白金ナノ粒子の合成が可能になりました。
【開発の背景】 ?
熊本大学では、液中で大電流火花放電を用いた液中パルスプラズマ法を開発し、様々なナノ粒子の合成の研究を行ってきました。この方法では瞬間的な高温と液体による急冷効果によって粒子径の小さなナノ粒子を量産することが可能です。現在、10nm以下のナノ粒子が様々な分野で用いられていますが、既存の方法(還元法やレーザーアブレーション法など)による5nm以下の極小ナノ粒子の合成は難しく、まだあまり世の中に出ていません。
金ナノ粒子は古くからステンドガラスなどの染色材料として、最近では透過型電子顕微鏡などを使用する際の生体染色剤として用いられています。医療関係ではDNAセンサー、細胞内プローブ、DNA解析などに用いられています。このような医療用のナノ粒子は細胞間や細胞内部を通過することが求められたり、また、DNAと反応させたりするために、よりサイズの小さい極小のナノ粒子が求められています。また、白金(Pt)やロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)などのナノ粒子を使用した半導体製造、排ガス触媒、燃料電池触媒など高性能触媒の開発は喫緊の課題となっています。触媒の他にも、白金やパラジウム、銀、銅のナノコロイド(金属ナノ粒子を分散させた溶液)は、抗菌材料、活性酸素除去材料、抗がん剤として医療、健康食品、化粧品に広く使われています。これらの課題にも粒径の小さなナノ粒子が高性能化に不可欠です。
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【開発の内容】
熊本大学では、これまでに液中繰り返し火花放電を用いた熊本大学独自のナノ粒子の合成法を確立していましたが、平均粒径が3nm以上の金属ナノ粒子しか合成できませんでした。今回、京石産業株式会社と共同して、瞬間的な電流量(ピーク電流)を2倍以上に上げることにより、金、パラジウム、白金で平均粒径が2nm以下の極小ナノ粒子を合成する技術を開発しました。
金属ナノ粒子の大きさは、動的光散乱法で数値的に、透過電子顕微鏡(TEM)で視覚的に測定します。これまでに、これらの手法で測定限界以下である平均粒径1nm以下の金ナノ粒子、平均粒径2nm以下のパラジウムナノ粒子及び白金ナノ粒子の合成に成功しており、今後、ロジウム、ルテニウム、銀などの単体貴金属ナノ粒子、さらに、合金ナノ粒子、化合物ナノ粒子に広げていく予定です。これらのナノ粒子は、触媒、医療材料、抗菌材料として応用が期待されます。すでに、貴金属ナノ粒子の半導体製造への応用研究などを進めているところです。
【用語解説】
※1 貴金属
化合物をつくりにくく希少性のある金属という条件を満たす金属、または標準水素電極と比較して高い正極電位をもつ金属と定義される。これらの物質は装飾品だけでなく触媒や医療用材料として広く用いられている。一般に、金 (Au)、銀 (Ag)、白金 (Pt)、パラジウム (Pd)、ロジウム (Rh)、イリジウム (Ir)、ルテニウム (Ru)、オスミウム (Os)の8つである。
※2 ナノ粒子
ナノ粒子とは1-100nm( ナノメートル: 10-9 m)程度の大きさを有する粒子であり、バルク体(ある程度大きさのある物体)、粉体に比べて、表面積、反応性、触媒特性、磁性などに優れている。金属や半金属、半導体、化合物のナノ粒子は、触媒、磁性材料、電池材料、光電材料、半導体材料、医療材料、薬品材料、健康食品として、環境、IT、印刷、医療などさまざまな分野で産業化が進められている材料である。
※3 火花放電
火花放電は英語でスパーク放電といい、電圧がある限界をこえると、または、急激に電圧がかかると電極間に火花が観察される現象で、不連続な過渡的現象の場合を指す。電極間に印加する電圧を上げると、電極間に存在する分子が高電圧によって加速された電子と衝突して電離し(α作用と呼ぶ)、また、電離によって生成された正イオンが負極に衝突する際に起こる二次電子放出により負極より電子が電極間の空間に供給される(γ作用と呼ぶ)ようになる。これらの二つの作用により生成される荷電粒子の量が、両電極あるいは周囲の空間へと失われる量よりも多いと、電極間に流れる荷電粒子の量はなだれ的に増加し、電極間には大電流が流れるようになることで起こる。
【関連する最近の主な論文情報】
1) “Synthesis of Pd–Ru solid-solution nanoparticles by pulsed plasma in liquid method”, T. Mashimo, S. Tamura, K. Yamamoto, Z. Kelgenbaeva, W. Ma, M. Tokuda, M. Koinuma, H. Isobe and A. Yoshiasa, RSC Advances 10, 13232 (2020).
2) “Homogeneously alloyed nanoparticles of immiscible Ag–Cu with ultrahigh antibacterial activity”, L. Yang, L. Chen, Y.C. Chen, L. Kang, J. Yu, Y. Wang, C. Lu, T. Mashimo, A. Yoshiasa, C.H. Lin, Colloids and Surfaces B: Biointerfaces 180, 466-472 (2019).
3) “Synthesis of Pd-Fe System Alloy Nanoparticles by Pulsed Plasma in Liquid”, S. Tamura , T. Mashimo, K. Yamamoto, Z. Kelgenbaeva , W. Ma, X. Kang, M. Koinuma, H. Isobe and A. Yoshiasa, Nanomaterials 8, 1068 (2019).
4) ”Synthesis of pure iron nanoparticles at liquid-liquid interface using pulsed plasm”, Z. Kelgenbaeva, E. Omurzak, S. Takebe, S. Sulaimankulova, Z. Abdullaeva, C. Iwamoto, and T. Mashimo,J. Nanoparticle Res., 16, 2603-1-13 (2014).
5) “Onion-like carbon-encapsulated Co, Ni, and Fe magnetic nanoparticles with low cytotoxicity synthesized by a pulsed plasma in a liquid”, Z. Abdullaeva, E. Omurzak, C. Iwamoto, L. Chen, T. Mashimo, Carbon, 550,1776-1785 (2012).
6) “Pure Tetragonal ZrO2 Nanoparticles Synthesized by Pulsed Plasma in Liquid”, L. Chen, T. Mashimo, E. Omurzak, H. Okudera, C. Iwamoto, A. Yoshiasa, J. Phys. Chem. C, 2011, 115, 9370–9375 (2011).?
7) “Synthesis method of nanomaterials by pulsed plasma in liquid”, E. Omurzak uul, J. Jasnakunov, N. Mairykava, A. Abdykerimova, A. Maatkasynov, S. Sulaaimankulov, M. Matsuda, M. Nishida, H. Ihara, T. Mashimo, J. Nanosci. Nanotechnol., 7, 3157-3159 (2007).
など。
- プレスリリース本文(618KB)
熊本大学産業ナノマテリアル研究所
担当:真下 茂 特任教授
電話:096-342-3295
携帯:080-5259-3295
e-mail: mashimo※gpo.kumamoto-u.ac.jp
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