植物が重力方向を感知する仕組みを解明
【概要説明】
植物は重力方向を感知して成長方向を調節する性質(重力屈性)により、根を水や栄養分が豊富な地中へ、茎を光合成や生殖に有利な上方へ向かわせます。重力屈性を行う植物の器官には、重力方向に沈降する粒(アミロプラストと呼ばれるデンプンを蓄積して高い比重を持つ細胞内小器官)を含む細胞が観察されます。この粒が沈むことで重力を感知するという「デンプン平衡石仮説」が、100年以上前に提示されました。しかし、アミロプラストの沈降という物理的な現象が、細胞内でどのようにして他の信号に変換され、また伝達されるのかについてはわかっていませんでした。
基礎生物学研究所植物環境応答研究部門の西村岳志助教、四方明格助教、森祥伍技術職員、森田(寺尾)美代教授の研究グループは、埼玉大学大学院理工学研究科の豊田正嗣教授、阿部純明 元大学院生、萩原拓真 大学院生、大阪大学大学院工学研究科の吉川洋史教授、熊本大学大学院先端科学研究部、国際先端科学技術研究機構の檜垣匠教授らと共同で、植物の根が重力方向を感知する仕組みを解明しました。研究グループは特殊な顕微鏡システムを駆使し、アミロプラストが沈んで細胞膜に近づいた時、アミロプラストに存在するLAZY1-LIKE (LZY)タンパク質が細胞膜に移動することで、細胞がアミロプラストの位置情報(即ち重力方向)を感知することを明らかにしました。さらに、重力方向の細胞膜に移動したLZYタンパク質は、オーキシン輸送を促進する因子を呼び込み、根にオーキシンの濃度勾配を生じさせ、重力屈性を引き起こすことを示しました。本研究成果は、植物生理学における長年の謎を解き明かしたとして、国際科学誌「Science」に米国東部時間2023年8月10日付けでオンライン先行掲載されます(日本時間 2023年8月11日午前3時解禁)。
【今後の展開】
本研究では、これまで考えられていたメカノセンシング機構とは全く異なる、細胞内におけるアミロプラストの位置情報をLZYタンパク質の移動を介して生化学的情報に変換するという新しい重力感知の仕組みを見出しました。さらに理解を深めるためには、LZYはどのようにアミロプラストに局在しそこから放出されるのか、アミロプラストから離れている細胞膜上にLZYが存在しないという状態はどのように作られるのかなどの課題に取り組む必要があります。また、LZYタンパク質からオーキシン輸送の制御に至る情報伝達機構を分子レベルで解明していくとともに、植物が重力とそれ以外の様々な環境情報をどのように統合し成長を制御しているのかを明らかにしていきたいと考えています。
LZYタンパク質は広く陸上植物に見出され、植物の全体形状と密接に関わることが近年明らかになってきています。イネでは、重力の影響を受ける葉や根の伸長角度が収量と関連することが示されています。本研究で明らかにされた仕組みは、イネなどの農作物においても働いている可能性があり、この研究成果は将来的に農作物の改良に役立つかもしれません。
【論文情報】
雑誌名 Science アメリカ科学振興協会 AAAS 発行
掲載日 米国東部時間 2 023 年 8 月 10 日 午後 2 時(日本時間 8 月 11 日 午前 3 時)
論文タイトル:Cell polarity linked to gravity sensing is generated by LZY translocation from statoliths to the plasma membrane.
著者:西村岳志、 *森 祥伍 、*四方 明格 、中村守貴、橋口泰子、 阿部純明、萩原拓真、吉川洋史、 豊田正嗣、 檜垣 匠、森田(寺尾)美代 (責任著者 共同第一著者)
【詳細】 プレスリリース(PDF581KB)
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