多彩な電子相を示す有機化合物の 物理特性を支配する重要パラメータの特定に成功 ――物質設計への新たな指針を発見――

【ポイント】

  • 有機分子固体で発現する多彩な物理特性が、電子相関の大きさによって一元的に決まることを示しました。
  • 結晶構造のみを入力とした、密度汎関数法と電子間の相互作用の超高精度解析から、電子相関の大きさが重要パラメータであることを特定しました。
  • 機能性有機材料の性質を定量的に評価できることを明らかにし、高性能な有機電子デバイスの実現に向けた進展が期待されます。

【概要説明】

東京大学物性研究所の吉見一慶特任研究員、三澤貴宏特任准教授は、熊本大学圓谷貴夫准教授、理化学研究所妹尾仁嗣専任研究員との共同研究で、複雑な結晶構造をもつ有機分子固体の物理的性質について、統一的に理解するためのパラメータが電子相関の大きさであることを、強相関第一原理計算手法(注1)を駆使することで、完全に非経験的に特定しました。

 有機分子固体は、電荷秩序、スピン秩序、超伝導状態など極めて多様な性質を持つ一方で、その背後にある物理的なメカニズムを理論計算から明らかにするには、量子多体問題(注2)を精密に解く必要があり、非常に難しい問題として知られていました。 

 研究グループは、擬一次元有機伝導体TMTTF、TMTSF((注3)、(図1)、以下TM)系化合物を対象に解析を行いました(図2)。TM 系化合物は陰イオン分子を組み合わせることにより、さまざまな電子状態が現れるため、電子相関効果を調べるための格好の物質として40 年以上も前から盛んに研究されている物質です。本物質群は、これまで化学圧(注4)やそれぞれの相転移温度を組み合わせた経験的な整理が行われてきました。

 本研究では、近年急速な進展を遂げている強相関第一原理計算手法を駆使することで、これらの複雑な性質を統一的に理解するためのパラメータが電子相関の大きさであることを、完全に非経験的に特定しました。具体的には、密度汎関数法に基づく第一原理計算(注5)を出発点に物質の低エネルギー物性を記述する有効模型の導出を行い、その有効模型を多変数変分モンテカルロ法(注6)により高精度解析することで、TM 系化合物の示す物性の物質依存性を再現することに成功しました。これにより、得られた電子相関の大きさが、TM 系化合物の物質依存性を一元的に説明するための鍵となることを示しました。

 本研究成果は、複雑な有機物質が示す多彩な物性を支配している微視的なパラメータを、理論計算をもとに決定できること示しています。この手法を更に発展させていくことによって、高性能な有機電子デバイスや新種の機能性有機材料の開発への道筋が拓けることが期待でき、
エネルギー効率の良い未来社会を実現するための重要な一歩を踏み出した成果と言えます。

 本研究成果は、米国物理学会が出版する科学雑誌Physical Review Letters に7 月18 日(現地時間)に掲載予定、注目論文であるEditor's Suggestion に選出されました。

【今後の展開】 

 本研究成果は、有機分子固体で発現する多彩な物理特性が、物質に依存する電子相関の大きさによって一元的に決まることを大規模数値計算によって示しました。これは機能性有機材料の設計における重要な一歩であり、新しい有機材料の開発と高性能な有機電子デバイスの実現に向けた進展が期待されます。

 また本研究成果は、強相関第一原理計算手法が有機分子固体の多様な物理的特性を深く理解するための強力な手法として有用であることを示しています。本手法が、さらに広範な物質群に対しても同様に適用可能であることが判明すれば、物性を制御する新たな手法開発の道が拓け、物性物理学における新たな一般原理の発見に加え、高性能な有機電子デバイスや新規に合
成される機能性有機材料の開発へつながることが期待できます。

【論文情報】

論文名:Physical Review Letters (Editor's Suggestion)
著者:Comprehensive Ab Initio Investigation of the Phase Diagram of Quasi-One-Dimensional Molecular Solids
掲載誌:Kazuyoshi Yoshimi, Takahiro Misawa, Takao Tsumuraya, Hitoshi Seo
URL:

【詳細】 プレスリリース(PDF581KB)

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