糖尿病性腎臓病の新たな早期診断マーカーを発見

【ポイント】

  • 糖尿病性腎臓病の進行に伴い、血清中に存在するアルブミン*1の酸化修飾体「システイン付加アルブミン(酸化型アルブミン)*2」の値が上昇することを発見しました。
  • 現在の診断マーカーとして頻用される尿中アルブミン*3に比べて、酸化型アルブミンは、より早期の腎病態を反映する可能性を見いだしました。
  • 酸化型アルブミンが高値を示す患者では腎病態進行が早いことが示され、病態進行の予測マーカーとしても利用可能であることが示されました。
  • 本測定は糖尿病性腎臓病の早期診断のための新たな診断マーカーとして活用されることが期待されます。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部 渡邊博志准教授、今福匡司博士(現:和歌山県立医科大学助教)、丸山徹教授らの研究グループは、同大学院生命科学研究部 鬼木健太郎准教授、猿渡淳二教授、医療法人社団陣内会?陣内病院 陣内秀昭院長(熊本大学薬学部臨床教授)、吉田陽博士、医療法人社団松下会?あけぼのクリニック 松下和孝理事長、田中元子副院長(熊本大学薬学部臨床教授)、金沢大学 和田隆志理事?副学長(腎臓内科学)、東海大学医学部腎内分泌代謝内科 深川雅史教授らとの共同研究により、糖尿病性腎臓病における新たな早期診断マーカーとしての血清中システイン付加アルブミン(酸化型アルブミン)」を発見しました。現在の診断マーカーとして頻用される尿中アルブミンに比べて、血清中の酸化型アルブミンは、より早期の腎病態を反映することに加えて、その上昇の程度が腎病態進行を予測する診断マーカーに成り得ることを示しました。今後、糖尿病性腎臓病の早期診断のための新たな診断マーカーとして酸化型アルブミンが活用されることが期待されます。なお、本研究成果は米国糖尿病学会誌「Diabetes Care」に令和3426()午前11(米国東部標準時)付て?掲載されました(日本時間427()午前0)。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けて実施したものです。

【展開】

 酸化型アルブミン測定は、現在のゴールドスタンダードとして頻用される尿中アルブミン測定に比べても早期の腎病態を反映する可能性が示されました。特に、2型糖尿病患者に由来する腎臓病ではアルブミン尿陰性例も多数含まれることから、血清中の酸化型アルブミンは糖尿病性腎臓病における新たな診断マーカーとしての活用が期待されます。

【用語解説】

*1 アルブミン(Albumin

血清中に最も多く存在するタンパク質であり、血清中浸透圧の維持に加え、脂肪酸や薬物の血清中輸送担体として機能している。主に肝臓で産生されたのち血清中に分泌される。

*2 酸化型アルブミン(Oxidized albumin

ここでは主に1分子のアルブミンに対して1分子のシステインが付加した酸化修飾体を指す。アルブミン分子上の34位のシステイン残基と1分子のシステインがジスルフィド結合したものを指す。

*3 尿中アルブミン(Urinary albumin)

尿タンパクの主成分であり、腎機能低下により濾過機能が正常にはたらかなくなると尿中排泄量が増大する。糖尿病性腎症の早期マーカーとして頻用される。


【論文情報】
論文名:”Cysteinylated albumin as a potential biomarker for the progression of kidney disease in patients with type 2 diabetes”

(和訳)システイン付加アルブミン(酸化型アルブミン)は2型糖尿病患者における腎症進展の診断マーカーとなる
著者:Tadashi Imafuku, Hiroshi Watanabe#, Kentaro Oniki, Akira Yoshida, Hiromasa Kato, Takehiro Nakano, Kai Tokumaru, Issei Fujita, Nanaka Arimura, Hitoshi Maeda, Yuki Sakamoto, Nozomi Kondo, Ayami Morita, Junji Saruwatari, Motoko Tanaka, Kazutaka Matsushita, Takashi Wada, Masafumi Fukagawa, Masaki Otagiri, Michael L. Fitzgerald, Hideaki Jinnouchi, and Toru Maruyama
掲載誌:Diabetes Care 2021;44:e1–e3(米国糖尿病学会誌)
URL:https://care.diabetesjournals.org/lookup/doi/10.2337/dc20-3003


【詳細】
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熊本大学大学院生命科学研究部
担当:渡邊博志(准教授)
電話:096-371-4855
e-mail:hnabe※kumamoto-u.ac.jp

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